漢方治療入門講座

気滞と気の傾向

気滞

気滞
気が滞っている(気が滞れば血・水のめぐりも停滞する)
現代社会では,生命エネルギーである「気」が発散できず,鬱滞して起こる「気滞」がよくみられます。気が滞れば血や水の巡りも停滞することになり,いわゆる気鬱や自律神経失調症を始めとして,さまざまな不調をきたします。
漢方医学には気の鬱滞を取り除き,生命力と自然治癒力を高める理気剤があります。
 
理気薬とは
気滞を解消する生薬を理気薬と呼びます。日本でよく使われる理気薬には香附子(こうぶし)・陳皮(ちんぴ)・枳(き)実(じつ)・木(もっ)香(こう)・烏(う)薬(やく)・厚朴(こうぼく)などがあります。
 
 理気剤とは
 
・芳香があり,アロマテラピー効果のある漢方薬といえる。
・胃腸虚弱な人の抗不安薬・睡眠薬・総合感冒薬・健胃薬・鎮咳薬・気管支喘息治療薬として使える。
・麻黄剤のように強く発汗させず,身体に優しい薬。
・裏寒・気虚のはなはだしいときは使用禁忌となる。
 
 
香附子が配合された理気剤について
理気剤の中で、今日,頻用されるのが香附子が配合された理気剤です。
香附子はハマスゲの根茎で,芳香があります。香附子の薬能は成書には疏肝理気・調経止痛とあり,気病の総司・女科の主帥とされ,感情の抑うつ・ヒステリックな状態・精神的な緊張などと関連のある月経痛・月経不順・頭痛・胃腸障害・不眠・のぼせに用いられます。
最近は地球環境の激変により,激しい気象の変化が起きるようになりましたが,曇天や台風などの大きな気圧の変動はもちろんのこと,狭い部屋にいることによる閉塞感や,気を遣ったための息詰まり,人混みなどのために極端に気分が悪くなったり,頭痛・頭重・肩こり・耳鳴り・眩暈・頭がボヤーッとするなどの,気鬱によるのぼせの症状を訴えることがよくあり,それらに対して,香附子の配された香蘇散などの理気剤を投与しています。
 
香附子配合処方の使用目標
 
・頭痛・頭重・肩こり・耳鳴り・眩暈などの気鬱によるのぼせ症状が,曇天や台風などの気圧の変動で出現。
・狭い部屋や人混みの中にいたり,気を遣ったりすると,上記の症状が出現。
 
 
外部環境の変化に対処できずに滞った肺気を香附子が発散させると解釈しています。また,肺や皮毛からの排泄機能が低下した老人などのかぜやインフルエンザにも香蘇散など香附子配合処方をしばしば用います。麻黄が配されていないため,発汗させすぎ脱力をきたす恐れがなく,麻黄の配された解表剤に劣らない効果を発揮します。
香附子の配された理気剤には香蘇散以外に,香砂六君子湯,二朮湯,川芎茶調散があります。また理気剤の範疇には入りませんが,香附子が配され,日常診療で効果の高い漢方処方には,芎帰調血飲・柴胡疎肝湯(組成は川芎茶調散合四逆散に近い)・竹筎温胆湯・女神散などがあります。これらの処方も,香附子配合理気剤と同様の使用目標を頭において使用しています。
 
 
香蘇散(香附子・紫蘇葉・甘草・陳皮・生姜)
香附子配合処方の代表。
気病の総司・女科の主帥といわれる香附子と,胃腸の働きをよくし発汗解表させる紫蘇葉に,胃腸の働きをよくし去痰作用のある陳皮,内臓・胃腸を温める甘草・生姜とが配合されています。香附子以外は,食品でもある生薬で構成されています。
香蘇散は芳香があり,身体に優しいアロマテラピー効果のある漢方薬で,軽いかぜやちょっとした胃腸の不調,軽い心の不調などに用いられるイメージがある薬です。しかしながら,原典の『和剤局方』傷寒門には,「四時の瘟疫傷寒(熱性の伝染病・インフルエンザ)を治す」と記述されており,インフルエンザなどの重症の病態に用いることもできる処方です。また,香蘇散は,約400年前,加藤清正が征韓の役で異国の地で籠城したとき,おおくの将兵が気鬱の病に罹り,軍中の医師が香蘇散をしきりに用いたと伝えられています。そのときの兵士の心中はいかばかりかと察せられます。そのような気もふれぬばかりの激しい神経衰弱にも効果がある方剤です。同時に脾胃の弱った現代人にも向く穏やかな処方構成となっており,ぜひお試しいただきたいと思います。
香蘇散は,外部環境の変化に対処できず,気が鬱滞し,食も停滞したものを目標にさまざまな疾患に広く用いる機会があります。
香蘇散が適応となる主な疾患・症状
 
・軽いかぜ・春先のかぜ・高熱の出ているインフルエンザ。
・軽い神経衰弱(気鬱),狂乱を起こしそうなシビアな状況。
・頭痛・頭重・肩こり・むかつき・心下の痞え・腹痛。
・血の道症・月経閉止。
・蕁麻疹。
・アレルギー性鼻炎・蓄膿症・臭覚脱失・鼻閉塞。 
 
 
 
香砂六君子湯(人参・茯苓・朮・半夏・陳皮・大棗・香附子・縮砂・藿香・生姜・甘草)
 香蘇散と六君子湯を合方すると近い処方になります。森道伯先生がスペインかぜの胃腸型に用いて多くの命を救われた処方で,かぜ・咳・胃炎・頭痛・自律神経失調症など幅広い使用の機会があります。
 
二朮湯(半夏・蒼朮・威霊仙・黄芩・香附子・陳皮・白朮・茯苓・甘草・生姜・天南星・羗活)
 五十肩の処方として有名ですが,処方構成からみると,香砂六君子湯に近い処方です。解表薬の羗活と祛風湿薬の威霊仙,清熱燥湿薬の黄芩が配され,香砂六君子湯に比べ,解表の効果が高く,より強く身熱を去る処方構成となっています。かぜ・咳・頭痛・自律神経失調症などに幅広く使用します。
 
芎帰調血飲(当帰・川芎・熟地黄・白朮・茯苓・陳皮・烏薬・香附子・牡丹皮・益母草・大棗・乾姜・甘草)
 香附子が配され,脾胃虚弱タイプの人の駆瘀血剤としてしばしば使用し,喜んでいただけることの多い処方です。産後の血の道症の代表処方です。いわゆる血の道症ばかりでなく,卵巣の機能をよくする効果も期待できます。月経障害・卵巣嚢腫・子宮内膜症・子宮筋腫を始めとして,女性のアトピー性皮膚炎・潰瘍性大腸炎など,さまざまな疾患によく使用しています。香蘇散と同じく香附子が配されており,気圧の変動で頭痛など著しい体調不良をきたすことを目標に用います。現代人にきわめて適応が多いように感じます。
厚朴が配合された理気剤について
厚朴の薬能
 
厚朴はホオノキの幹皮.根皮を乾燥したものです。芳香があり、一般的には理気薬に分類されていますが、「和語本草綱目」には「胃の実滞を平らげ、湿冷を去り、中を温め、食及び痰を消し、気を下し、腹脹瀉痢を治するの要剤なり。厚朴は胃を瀉し、気を泄す。胃気不足のものに用いるなかれ」と記載されています。
厚朴の主作用は胃経を温めて、下すことであると思います。「漢薬の臨床応用 医歯薬出版」では、厚朴は理気薬ではなく、芳香化湿薬に分類されています。
厚朴が配合された理気剤には半夏厚朴湯、茯苓飲合半夏厚朴湯、平胃散などがあります
 
半夏厚朴湯及び半夏厚朴湯発展処方が適応となる主な疾患
 
梅核気(咽中炙臠)を訴える人の
・自律神経失調症、パニック発作、不眠症。
・咽頭炎、風邪、気管支炎、喘息、嗄声、声帯浮腫、咽頭刺激感や瘙痒感。
・神経性胃炎、胃炎、神経性嘔吐、食道憩室、食道痙攣。
 
 
 
 
半夏厚朴湯及び半夏厚朴湯発展処方の使用目標
 
・咽のつまり、心下痞、胃内停水、腹のガス満、尿利減少。
・顔面や手足の微かな浮腫み。
・感情を押し殺している硬い感じがある。
・無意識にやたらに水分を摂取したり、食べたりして、ストレスを解消している傾向がある。
 
 
半夏厚朴湯など厚朴配合処方との鑑別
 
喉の詰まりを訴えれば、半夏厚朴湯証とのイメージが強いのですが、現実は喉の詰まりが半夏厚朴湯及び、その発展処方でよくなることはそれほど多くありません。喉の気血の流れをよくする処方一般に効果があるのです。
 
  1. 香蘇散など香附子の配された処方喉の詰まりが香蘇散など香附子配合処方で、周囲の空気と馴染むことにより良くなることがあります。曇天や台風など外部環境の変化により、極端に頭痛や頭重、肩こり、耳鳴りなどの愁訴と共に、喉の詰まりを訴える時には、香附子配合処方で効果があることが多いように感じます。
  2. 甘麦大棗湯喉の詰まりが、意外に甘麦大棗湯でよくなることがあります。半夏厚朴湯および半夏厚朴湯発展処方に認められる感情を押し殺した表情の硬さがなく、心気虚に陥り、さめざめと泣きやすいことなどより鑑別できます。
  3. 麦門冬湯や炙甘草湯などの滋陰剤喉の詰まりが、喉や上胸部の燥熱に因ることが少なくありません。上胸部に熱を触知することを目標に、麦門冬の配された麦門冬湯や炙甘草湯などを用います。半夏厚朴湯及び半夏厚朴湯発展処方は上胸部に熱を触知することはありません。
  4. 加味逍遥散など薄荷や山梔子の配された処方喉の詰まりを訴える人が加味逍遥散や荊芥連翹湯など、薄荷や山梔子の配された処方でよくなることがあります。胸に熱を触知することで鑑別できます。
         
 
半夏厚朴湯(厚朴・紫蘇葉・半夏・茯苓・生姜) 別名:大七気湯
いわゆる気剤(理気剤)の代表とされているのは、厚朴の配された半夏厚朴湯です。厚朴と燥湿去痰作用のある半夏が主薬で、更に利水薬である茯苓に、胃腸の働きを良くし発汗解表させる紫蘇葉と生姜が配されています。半夏厚朴湯は中医処方解説には化痰利水剤に分類されており、胃経を温め、下して、気分を開かせる処方と言えます。
一般的には半夏厚朴湯は梅核気(咽中炙臠(いんちゅうしゃれん))と言い、咽喉または胸骨の裏のところに梅干しの種のようなものが引っ掛かっているような異物感を訴える人の自律神経失調症や気管支炎など、諸疾患に用います。喉や胸、胃にストレスを溜め込み、梅核気ばかりでなく、胸部が張って苦しい、呼吸困難や悪心、嘔吐、噯気、上腹部膨満感などを訴える人に投与します。多くは貧血性、無力アトニー型で、冷え症で疲れやすい体質に用います。私はそれに加えて、顔面や手足の微かな浮腫みや感情を押し殺している硬い感じや無意識に過食して、ストレスを解消させている傾向があることを目標に用いています。ことに女性は感情を爆発させないように幼少時より躾けられていることが多いので喉や胸や腹にストレスを溜め込んで吐き出さず、咽の詰り、胸くるしさ、過呼吸となったり、あるいは空腹感にまかせてやたらにコーヒーなど飲み物を摂ったり、無意識に甘いものなどを味わうことなくお腹いっぱいに食べて、ストレスを解消していることが多いのです。
私は、半夏厚朴湯単独でなく、半夏厚朴湯の発展処方である茯苓飲合半夏厚朴湯、茯苓飲合半夏厚朴湯合香蘇散(正理湯加減)や平胃散をよく使用し、極めて有効であると実感しています。また、理気剤の範疇には入りませんが、当帰湯や九味檳榔(くみびんろう)湯(とう)、柴朴湯、通導散などの厚朴配合処方も良く用いています。これら処方も半夏厚朴湯と同様の使用目標を頭において使用しています。
 
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茯苓飲(茯苓・白朮・人参・生姜・橘皮・枳実)
茯苓飲合半夏厚朴湯
半夏厚朴湯証と思われても、食べ過ぎの傾向があり、心下痞硬を認める人に使用します。今日は飽食の時代で、知らず知らずのうちに食積を起こしていることが極めて多く、茯苓飲合半夏厚朴湯を良く使用しています。半夏厚朴湯単独よりも応用範囲が広く、現代人向きの使いやすい処方です
いわゆる自律神経失調症ばかりでなく、風邪やインフルエンザ、気管支炎、胃炎逆流性食道炎、アレルギーなど幅広く使用します。
 
 
正理湯加減 (茯苓飲合半夏厚朴湯と香蘇散の合方)
構成生薬:蒼朮、・蘇葉・香附子・枳実・厚朴・陳皮・半夏・茯苓・甘草・生姜。
 正理湯とは、韓医学の大家である尹吉栄先生が記された「東医臨床方剤学」の処方の一つです。万病を治療するに当り、脾胃を中心に安中去湿し、気滞を解く薬です。韓国では胃腸疾患, 神経性疾患, 胃酸過多, 胃痙攣, 中風, 月経痛, 帯下に使用されています。日本では馴染みのない処方ですが、香蘇散に茯苓飲合半夏厚朴湯の組み合わせが正理湯に近いといえます。最近この処方を知り、いわゆる自律神経失調症だけでなく、風邪やインフルエンザ、気管支炎、アレルギー、胃炎など広く諸疾患に使用しています。
 
 
 
 
 
 
 
平胃散(厚朴・陳皮・蒼朮・大棗・甘草・生姜)
食べ過ぎ、太り過ぎとなっている人に適応が多い理気化痰の蒼朮、厚朴、陳皮と、和胃の生姜、甘草、大棗から構成されています。胃内に食毒と水毒が停滞しているのを平らかにするという意味で平胃散と呼ばれます。比較的実証タイプで、平素より食べ過ぎ、胃に食積と水が停滞し、消化障害をきたして上腹部膨満感、腹痛、食欲不振、口が粘る、悪心などを訴えながらも、相変わらず、食べ過ぎている人に用いています。急性胃炎、慢性胃炎、逆流性食道炎ばかりでなく、頭痛、風邪、気管支炎、喘息、うつ状態、眼疾、頭瘡など広く諸疾患に用いられます。舌は嫩(どん)で白や黄白色の膩苔を認めることが多いです。
平胃散に五苓散を合方すると胃苓湯となり、平素より食べ過ぎ、胃に食積と水が停滞している人が、急性胃腸炎となり、胃痛、下痢と口の渇きを訴える人に使用します。
 
当帰湯(当帰・芍薬・半夏・厚朴・桂枝・人参・黄耆・乾姜・蜀椒・甘草)
大塚敬節先生の漢方治療の実際にはこの方は真性の狭心痛ではなく、仮性狭心症ともいうべき胸背痛に用いています。千金方には「心腹絞痛、諸虚冷気、滿痛を治す」とあります。血色の優れない冷え症の患者で、腹部にガスが充満し、ことに上腹部に甚だしく、そのために胸部が圧迫せられる傾向のものに良く効きます。肋間神経痛あるいは狭心痛といわれ、はっきりした病名がつかず胸背の痛みが慢性化したものに、この方を用いて著効を得ることがあります。血色の優れない冷え症で、特に上腹部・胸・背・腕などに冷気を覚えるものに良い。また、胃から胸にさしこむように痛み、その痛みが胸、背、腕などに放散するものに良い、と記述されています。
肋間神経痛のみならず、自律神経失調症、肩こり、風邪、気管支炎、便秘、高血圧症など幅広い使用の機会があります。私は神経質で気が高ぶり、頑張り過ぎるタイプの方で、首・肩の凝りがあり、冷え症で腹のガス満、便秘のあるのを目標に当帰湯を投与しています。
 
九味梹榔湯(梹榔・厚朴・桂皮・橘皮・蘇葉・甘草・生姜・木香・大黄)
浅田方函に(脚気腫満、短気、及び心腹痞積、気血凝滞するものを治す)とあり、便秘しないものは大黄を去り、一般に呉茱萸、茯苓を加えると記載されています。
梹榔子は胸部に岩のように硬化した氣のかたまりが、厚朴などの薬味を用いてもたたききれない時に用います。これにより、上から下へと消化管の中を掃除して、胸中の結気を強力に破り、下行させることによって、水を動かし、血を動かす作用があります(伊藤康雄先生)。因って、九味檳榔湯には気滞、水毒、瘀血に対する複合剤に近い働きがあります。多くの場合は、心下痞硬.冷えを認めることが多く、九味檳榔湯に呉茱萸湯を合方して投与します。
体格栄養はよいが、筋肉柔らかく、ブヨブヨ、水毒体質で、両脚がだるくてシビレやすい 全身倦怠感 動悸、息切れ 咽の詰り、イライラして気分の落ち着きがないといった愁訴に年余にわたり苦しみ、臍傍や臍下に瘀血を思わせる抵抗と圧痛が認められる、多くは中年女性のいわゆる更年期障害、自律神経失調症、不眠、便秘、肥満など諸疾患に投与し、喜んでいただけることの多い処方です。
 
 
 
 
 
その他の理気剤
 
六君子湯四君子湯+陳皮・半夏)
 
理気剤である陳皮が配されている。
飲食物をとり過ぎ、身体を動かすことが少なく、胃がつかえ、気欝のある現代人のファーストチョイスの薬として良く使用。多くは痩せ気味の人に適応が多い
  • 風邪 咳 胃腸のトラブルにも用途が広い
帰脾湯(四君子湯+木香・黄耆・酸棗仁・龍眼肉・遠志)
心虚して気鬱となっているものに使用、過多月経などにも使用
 
 
 
気の偏向
漢方医学では五臓六腑にそれぞれに神が宿り、臓腑の機能を整えると共に各臓腑には固有の感情を内蔵していると考えています。また病気の内因として、七情といって極端な感情の逸脱が病気を引き起こすことを示し、それぞれに的確な治療薬方を用意しています。現代医学の心身症の概念、治療法より遥かに優れていると思います。
  1. 『肝は将軍の官、謀慮出ず胆は中正の官、決断出ず』
    肝胆の気が充実している人は筋骨逞しく、集中力があり快活明朗で行動力と決断力あるタイプであるとされます。しかし、肝気を高ぶらせ過ぎると肝気欝血、肝火が生じ、肝に内蔵している忿怒の感情が爆発して訳もなくいらつく、怒鳴る、手が震え、挙げ句の果てには肝を破り、自制心を失い、鬼と化して犯罪を犯したり、精神病・不眠症となったり、臓器を傷つけて高血圧・心臓病・胃潰瘍など様々な病気を引き起こします。肝気の異常興奮による病気には、肝実熱を冷ます瀉火剤が用意されています。反対に肝気が衰える(肝虚)時には集中力が鈍り、気力が衰え疲れやすくなります。また、高血圧・腰痛症などの病気の原因となることもあります。肝虚により引き起こされた病気には肝の補養剤を投与します。四物湯が代表的です。
抑肝散(柴胡・川芎・当帰・釣藤・甘草)
小児の癇の虫の薬として、夜泣き・チックに用いるばかりでなく、広い年代の諸疾患にも使用される。
四逆散(柴胡・枳実・芍薬・甘草)
肝気欝結の代表薬
竜胆瀉肝湯(車前子・黄ごん・沢瀉・木通・地黄・当帰・山梔子・甘草・竜胆)
  1. 『心は君主の官、神明出ず』
    喜びの感情を内蔵している。バランスを崩し過剰になると妄想・幻覚を来し気が狂う。虚すと憂え、神経衰弱となる。
  2. 『脾は倉廩の官、五味出ず』
    思の感情を内蔵している。バランスを崩し過剰となると気が狂う。虚すと思い煩い、食欲なく、食べ物の味が分からなくなり、神経衰弱となる。
大承気湯(大黄・枳実・芒硝・厚朴)
精神病に使用の機会
調胃承気湯(大黄・芒硝・甘草)
胃の滞りを整えることにより、気の巡りを良くする。
三黄瀉心湯(大黄・黄連・黄ごん)
精神病に使用の機会
半夏瀉心湯(半夏・黄きん・乾姜・人参・甘草・大棗・黄連)
帰脾湯(四君子湯+木香・黄耆・酸棗仁・龍眼肉・遠志)
思慮過度にして心脾を労傷し血を摂むることあたわざる時に使用
  1. 『肺は相傳の官(君主に付き添う高官)治節出ず』
    慮の感情を内蔵している。肺がしめつけられると悲しみやすくなる。悲しみ過ぎると肺を破る。
甘麦大棗湯(甘草・大棗・小麦)
  1. 『腎は作強(作用を強める)の官、伎巧出ず』
    恐の感情を内蔵している。腎を虚すと驚きやすくなる。恐れ過ぎると腎を破る。ストレス病にかかりやすい。
桂枝人参湯(桂枝・人参・甘草・乾姜・白朮)
八味腎気丸(桂枝・附子・地黄・山薬・山茱萸・沢瀉・茯苓・牡丹皮)
気の上衝
収まるべき気が逆行し、上半身(特に首から上)に気が過剰となっている。
顔が熱い、のぼせる、ふらつく、顔がほんのり赤み、眼の充血・しょぼつく、耳が赤い、耳鳴り、頭痛、不眠、イライラ、肩こりなどの症状が出現する。
治療薬方は桂枝湯(桂枝・芍薬・甘草・生姜・大棗)など桂枝湯類。
気の上衝が著しい場合は「上熱下寒」となり、桂枝湯に冷えとりの薬が加味された厥陰病の方剤である、当帰四逆加呉茱萸生姜湯の適応となり、上衝の症状に加え、尿意が近いなど下半身の冷え症状が出現する。
「上盛下虚」となり、八味地黄丸が代表的薬方であるが、上衝の症状に加えて体型的に上半身が太り、下半身が痩せて、お尻の筋肉が落ち、足が細く、腰痛、膝痛、足弱、インポテンツなど下半身の虚の症状が加わる。
中年以降の諸疾患によく用いる。
 
冷えのぼせ
頭痛、頭がふらつく、めまい、眼がしょぼつく、顔のほてり、肩こり、不眠、イライラ、クヨクヨ、手足が冷たい、尿意が近い、高血圧、血の道などを起こす。

 
まとめ
  1. 機能の不足
気の不足…気虚―補気剤
  1. 機能の障害
気の滞…気滞―(理)気剤
広義には解表剤も入る
気の偏向・気の有余…内火を生じる―瀉火剤
(清熱瀉下剤・柴胡剤…駆瘀血剤)
  1. 機能の逆行
気逆…収まるべき気が逆行する
咳・げっぷ・しゃっくり・悪心・嘔吐
気陥…中陥下陥…内臓下垂、子宮下垂、脱肛、頻尿、全身倦怠、筋力無力
気の上衝(上気・気の上逆)
上熱下寒という病態となり、長引けば上盛下虚となる
気血水の関係
気が滞れば水が滞り、血が滞る。
どの要素が強いかで 気血水 と病因を分けている。
 
 

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