漢方治療入門講座

温裏剤について

温裏剤について

裏寒とは
現代医学には裏寒の概念も治療法もありませんが、漢方医学では裏寒の治療を最優先して行うことを原則としています。なぜならば、裏寒を見逃して治療を行うと却って病状を悪化させ、場合によっては死に至らしめてしまう危険性があるからです。
裏寒とは、生体がストレスに打ちのめされ、防衛反応が衰え生命維持に必要な代謝が低下した結果として、身体の中心部の冷えを来している状態のことを指します。現代医学の立場ではショック準備状態か、あるいはそれに近い状態を指していますが、温裏剤を適切に使用することにより危急を救うことが出来ます。温裏剤は漢方医学の救急救命剤、漢方のステロイドホルモン剤と言えるでしょう。この時心臓に近かったり、身体の芯を投影していると考えられる部位が他部位と比較して冷たいのを触知します。


しかし、今日の日本人は脆弱で裏寒に陥りやすい体質に変化しています。体調不良などを訴えて受診される患者さんの中にも見た目には分からないが危急の事態の時と同様に、体の芯を投影していると考えられる部位が他と比較して冷たく、隠れた裏寒に陥っている方が非常に多いことに気づきます。今日の一般的な漢方治療指針は「傷寒論」に記述されている様に、危急の事態に対して温裏剤をクラシックに使用するように指示されているだけであり、今日の日本人の実情に合わなくなっています。
隠れた裏寒証をも見つけ出し治療するには、裏寒をショック状態・緊急事態で捉える古典的な概念を改め、新たな拡大解釈を取り入れる必要があります。


現代人は邪が重畳して追いうちをかけるため警告反応の時期が長引くことが多い。

現代人は邪が重畳して追いうちをかけるため少陰病となっていることが多い。

 
今日の漢方医学において裏寒を重視しなければならない理由
  1. 地球環境の悪化、食生活や生活様式などの変化により今日の日本人は脆弱になり、裏寒に陥りやすい体質に変化しているから。
具体的には…
電磁波やダイオキシン等各種の内分泌撹乱物質による邪の侵襲
冷蔵庫や冷暖房・自動車の普及による快適かつ便利な生活
生活リズムが夜型に移行・高層住宅・情報過多で多忙な生活・人と人との温もりが薄くなりストレスの多い社会
  1. 病気のごく初期の段階や体調不良など、病気でない病気をも診察する機会が増えたが、これらの疾患には温裏剤の使用の機会が非常に多い。
  2. 現代医学の治療は特殊な場合を除いて、漢方医学の立場からは攻撃的治療に終始すると考えられる。
    現代医学の治療を受けてはかばかしくないとの理由で漢方治療を希望されるケースが日常多いが、現代医学の攻撃的治療に打ち負かされて裏寒に陥っているケースが多い。
一般臨床の立場での温裏剤の範囲と応用
一般臨床の立場での温裏剤の範囲
甘草乾姜湯 甘草・乾姜
四逆湯 附子・乾姜・甘草
附子湯 附子・茯苓・芍薬・白朮・人参
人参湯 人参・白朮・甘草・乾姜
附子理中湯 人参湯+附子
真武湯 茯苓・芍薬・乾生姜・白朮・附子
真武湯生脈散 真武湯+人参・麦門冬・五味子
芍薬甘草附子湯 芍薬・甘草・附子
「桂枝や麻黄などの解表薬の配されない、生姜や附子の配された構成生薬数の少ない処方」
 
一般臨床の立場での温裏剤の応用
  1. いわゆるプライマリーケアーに使用すると効果抜群である。
    (病のごく初期は警告反応の時期にあり裏寒に陥っている)
    風邪・咳・鼻水・発熱・下痢・腹痛・嘔吐・尿意頻数・夜尿・水様性帯下
  2. 現代医学が苦手とする体調不良など病気でない病気などで裏寒体質のものに多用
    (現代医学には冷えの概念も治療法もない)
    胃腸虚弱・風邪をひきやすい・風邪が治りにくい・低血圧・起立性調節障害
    内臓下垂・体調がすぐれない・疲れやすい・神経衰弱
  3. 現代医学の治療経過において病気の程度から考えて訳もなく体調の不調を訴えたり、むやみに苦しがったりする時
    (現代医学の治療は殆どが生体にとって攻撃的治療法であり、裏寒に陥りやすい)
    手術・放射線治療・抗ガン剤・薬剤投与過誤・多剤服用
  4. 漢方治療の効果を高めるために温裏剤を兼用
    小倉先生の提唱する潜証の概念、今日の日本人は壊病に陥っているケースが多い。
  5. 漢方医学で往診治療をする時にしばしば用いる機会がある。
    (漢方の救急救命剤は温裏剤である)
    ※特に四逆湯類を使用する機会が多い。
隠れた裏寒証をも見つけだすためのポイント
裏寒を診断するためにはショックに陥らんとする症候を見逃さずに捉えることです。
しかし、隠れた裏寒証の有無は現実には紙一重の差を読み取らないと診断できないことが多く、古典的診断基準だけでは不十分であり、新たな診断基準が必要です。
そこで、一般的な寒熱の診断基準で寒(機能低下)の所見を捉える必要があることは勿論ですが、注目すべきチェックポイントを挙げてみました。
以下に挙げる項目のうち一つでも該当すれば裏寒を念頭に総合診断を進める配慮が必要でしょう。
ポイント1.まさにショックに陥らんとする、ショックを起こすかも知れない症候
冷や汗、顔色不良、手足厥冷
血圧低下…ショック血圧でなくても、普段と比べ著しく低下している時も含める
著しい体調不良症状…むやみに苦しがる、むやみに眠がる、咽燥し声がかすれる、ムカムカして吐きそうになったり吐く
ポイント2.寒(機能低下)の所見
寒そうな様子、顔つき(顔色が悪い、蒼白、唇の色が悪い)
手足が冷えている、体が冷たい、体温が低い
口中は乾燥せず水分を欲しがらない
温かい飲食物を欲しがる
舌質は淡、舌苔は白く潤っている
尿は透明で着色していない・量が多い
便は軟便傾向
脈はわかりにくい
ポイント3.触診により裏寒を捉える(他の部位と比較し、冷えを判断)
背部の肺愈、心愈辺りの冷え
心下の冷え
左上腹部の冷え
鼻の冷え
臍の辺りや臍下の冷え
膝や手首の冷え
その他.特に注意すべき点(裏寒外熱を見逃さない!)
顔色…身体の芯を投影している鼻や唇の辺りの白さ、浮腫み。唇が蒼白、紫色
手が温かくても指先が冷えている
発熱していても平気でいる・熱のわりに脈が遅い・判りにくい・均一でない
汗をかきやすくて、風邪をひきやすい・鼻水や咳が出やすい
口唇、特に下口唇の赤みや乾燥・舌苔の乾燥・冷たいものをがぶ飲みする
やたらに暑がる・汗を物凄くかく・寝れない・無性に痒い・無性にいらつく
などの身熱を思わせる所見は、実は裏寒外熱・真寒仮熱、あるいはそれに煩燥が加わった状態であることが多い
補足
温裏剤の効き目を良くするには、日常生活の注意が特に必要
冷たいもの(かき氷・アイスクリーム・シャーベット・ビール)や冷えるもの(陰性食品…生野菜・果物・ジュース・ヨーグルト・牛乳・甘い物)を控える
水分をやたらに取らない
日本の風土に合った米食中心の伝統食を腹八分に規則正しく食べる
流行に惑わされず冷えない様に衣服を工夫する
寝冷えしない様に腹巻きをしたり、窓を開け放して寝たりしない
風呂に入った後、風邪をひかない様に工夫する
冷暖房を出来るだけ少なくし、自然の生活を心がける
車ばかりに乗らないで、足を使い身体を動かすようにする
夜遅くまで起きていないで、自然のリズムに合った生活を送る
情報に躍らされず、ゆったりと明るい生活を送る。(精神的ストレスでも裏寒に陥ります)
裏寒をとる補助的方法
足浴(衣服を着たままで足だけ風呂につかる。汗ばむまで続けるとよい。)
カイロや湯たんぽなどを使って身体を温める
身体の温まる飲み物・食べ物をとる(生姜湯・キムチ鍋・味噌鍋など)
足を冷やさない(五本指靴下を履いたり、重ねばきをする。)
 
 

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