漢方治療入門講座

温病について

 
温病について

温病とは
風邪やインフルエンザには葛根湯や麻黄湯「太陽病の治療処方」が今日の日本では、何の疑いもなく投与されていますが、はたして現代の風邪・インフルエンザは本当に太陽病なのでしょうか?
今日の中国では風邪は傷寒「葛根湯、麻黄湯」ではなく、温病の治療処方である銀翹散などが投与されています。温病とは
中国で、清の時代に発展した概念で、今日の日本のように、人々が酒色過度となり、生活不摂生が甚だしく、精を蔵さず、陰虚伏熱体質に変化してきたために、葛根湯や麻黄湯などの強く発汗を促す、辛温解表剤では弱った身体を損なうので、辛涼解表剤を投与する必要が生じた。
温病とは表熱
風邪の初期で強い惡寒は無くて熱感あるいはかすかな惡寒、発熱、口渇、咽頭痛、扁桃腺炎や目の充血
麻黄剤で強く発汗させてはいけない病態
表寒「太陽病」よりも体温上昇が強く、炎症傾向が激しく、進行も早いので注意が必要。
温病の治療薬方
温病の治療薬方は銀翹散が代表です。
銀翹散:芦根15.0;金銀花・連翹各12.0;淡豆豉・淡竹葉・牛蒡子各9.0;薄荷・荊芥・桔梗各6.0;甘草3.0で辛涼解表する。
銀翹散は残念ながら薬価収載されていません。銀翹散に近い漢方エキス剤である参蘇飲や升麻葛根湯、川芎茶調散をよく使用し、効果を実感しています。
近年、致死性の高い、新型インフルエンザが中国で発生したが、温病として治療し、救命できたとの報告があります。今のところ、日本では温病といっても、程度が軽く、広義の温病処方で対処しています。
広義の温病処方
広義の温病処方
処方名 構成生薬
参蘇飲
※六君子湯に右記生薬を加える
葛根 蘇葉 前胡 木香 枳実 桔梗 
川芎茶調散 川芎・香附子.薄荷・荊芥・防風・白芷・羗活.甘草・細茶
升麻葛根湯 葛根.芍薬.升麻・生姜.甘草
香蘇散 香附子 陳皮 蘇葉 甘草 生姜
香砂六君子湯 人参・茯苓・朮・半夏.;陳皮・大棗・香附子・縮砂・藿香.生姜.甘草
香蘇散と茯苓飲合半夏厚朴湯の合方 香附子 陳皮 蘇葉 甘草 生姜 半夏 茯苓 朮 厚朴 人参 枳実 生姜
茯苓飲合半夏厚朴湯 茯苓.朮.人参・陳皮・厚朴.枳実.半夏.紫蘇葉.生姜
六君子湯 半夏・茯苓・人参・朮.;陳皮・大棗.甘草・生姜
帰脾湯 黄耆 酸棗仁 人参 白朮 茯苓 竜眼肉 遠志 大棗 当帰 甘草 生姜 木香
清暑益気湯 朮 人参 麦門冬 黄耆 当帰 黄柏 陳皮 五味子
猪苓湯 猪苓湯:猪苓・茯苓・沢瀉・阿膠・滑石
五苓散※ 沢瀉 朮 猪苓 茯苓 桂枝
 
 
今日の日本もまさに清の時代のような状況で、その上、地球環境の激変が加わり、今日の日本人は想像を超えて陰虚体質に変化しています。日常診療で風邪に葛根湯や麻黄湯を使用する機会は殆どありません。現在も風邪には葛根湯や麻黄湯と信じて、江戸時代と同じ治療がつづけられ、誤治により、体調を崩して受診されるひとが後を絶ちません。眼を大きく開いて現実を冷静に知る必要があります。
また、今日の漢方治療は生活改善の指導を中心とし、平素から補陰剤や滋陰剤を重視する治療が必要となっています。
森道白先生は大正時代にスペイン風邪が大流行したとき、咳タイプには小青竜湯加杏仁、石膏、脳症タイプには升麻葛根湯加白朮、川芎、細辛、胃腸タイプには香蘇散加茯苓、白朮、半夏 を用い、多くの患者さんを救命されました。広義の温病処方を用いられたのです。
 
 
 

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