漢方治療入門講座

血の道の主な漢方薬

今日の血の道の主な漢方薬

代表的な漢方薬
  1. 芎帰調血飲 産後に限らず、虚弱化した今日の日本人の血の道のファーストチョイス
    脾胃虚弱、気血虚損するものの諸疾患に使用。
  2. 加味逍遥散 体が疲れやすく、頭目昏重 不眠 多怒 ホットフラッシュ、胸脇苦満、腹直筋の攣急、下腹に瘀血を思わせる抵抗と圧痛のある人に使用。
    3  滋陰至宝湯
    加味逍遥散に近い処方ですが、上胸部に燥熱があり、咽の乾き、皮膚のかさつき、ドライアイを訴えるひとに使用。寝汗を訴えることがある。昔、肺結核に投与された処方。
    4  六味丸
               ホットフラッシュが陰虚に因ることが最近、極めて多い。 口渇、のぼせ、ほてり、足のだるさを目標に使用
  •     5 安中散
  • 下腹部の瘀血所見があるどちらかと言うと痩せて顔色が悪い人で、食べ過ぎて胃痛、胸焼けのある時に使用。口の周りに吹き出物があることが多い。 
         6加味帰脾湯
    加味逍遥散証より一層虚状を呈する脾胃虚弱、心気虚、胸脇苦満のあるものに使用、
    7  温経湯
    のぼせて足冷し、口唇乾燥、手掌煩熱、下腹に瘀血、上胸部に燥熱、皮膚のかさつきのある人に使用。
    8  女神散
    今日よく使用する漢方エキス剤の中で伝統的な婦人薬に処方構成が一番近い。
    黄連の適合する、一般的には赤黒い顔つきでがっしりとした体格の人で眩暈、ふらつき、のぼせを目標に使用血熱のあるものに良い。
    9 通導散
    打撲により内出血をおこしたような重篤な状況に用いられてきた。厚朴が配されており、心下部が緊張してガス満、下腹に瘀血、上衡が激しい時「イライラ、不眠」に使用。
     
     
     
血の道の漢方薬を使用する利点
現代医学には血の道としての概念も治療法もなく、一般の自律神経失調症と大体同じ精神安定剤などを中心とした薬物療法が行われています。
血の道症状は多彩で現代医学の立場で治療された時、精神科では鬱病、循環器科では狭心症、内分泌科では甲状腺疾患、呼吸器科では気管支喘息、耳鼻科ではメニエール症候群、整形外科ではリウマチの疑いのもとに治療がなされてはかばかしくないため当院を訪れるケースが多い。
現代薬を中止し、血の道の漢方薬を証に従って投与すると漢薬のみで短期日に軽快することが多い。
血の道症には現代医学の薬で治療するより血の道の漢方薬を使用したほうがはるかに有利です。
また、血の道の漢方薬は血の道症に用いるだけでなく、生理不順、月経障害、子宮内膜症、子宮筋腫、などの女性疾患、女性に起きた諸疾患[アトピー性皮膚炎湿疹 喘息 高血圧 膠原病など]にも血の道症状を目標として血の道の漢方薬を適切に使用すると好結果を得ることが多い。
血の道の薬は女性にとって単に血の道の治療に有効であるばかりでなく、あらゆる病気に有効である確率が高く、女性の冷え取りの薬と並んで女性に起きた諸疾患には血の道の薬をファーストチョイスとして投与する価値があると思われます。
臨床応用
  • 芎帰調血飲(当帰・川芎・地黄・白朮・茯苓・陳皮・烏薬・香附子・牡丹皮・益母草・大棗・乾生姜・甘草) 「産後一切の諸病、気血虚損、脾胃虚弱 悪露下らず、あるいは血を去ること過多するを治す」(万病回春・産後門)
    産後の諸病に用いるとされているが、産後に限らず、広く、女性の諸疾患によく使用
臨床応用
胃腸虚弱なものの産後の不調、血の道、月経不順、月経困難、子宮内膜症など婦人疾患、アトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎など
使用目標
一般的に痩せ型で胃腸虚弱なもので下腹部に瘀血を示唆する所見と曇天など気圧の変動で体調不良となり、高温期に著しい不調を訴えるのを目標にする
鑑別処方
加味帰脾湯
同じく胃腸虚弱タイプの女性に用いられる処方であるが、心虚症状(ぐっすり寝れない、夢ばかり見る)、柴胡の証(胸脇苦満、口苦など)があり、下腹部の瘀血を示唆する所見がはっきりしない
安中散
  • 下腹部の瘀血所見があるどちらかと言うと痩せて顔色が悪い人で、食べ過ぎて胃痛、胸焼けのある時に使用。口の周りに吹き出物があることが多い。
  • 延胡索が配されているので、駆瘀血剤でもあり、生理痛や腰痛にも効果あり。虚弱となった現代人極めて使い勝手が良い。また安中散の名の通り、内臓機能を高め、体力アップに効果のある処方。過労や病後回復に、動悸と瘀血を目標に用いている。
  • 胃痛 便秘 月経障害 腰痛 風邪 アトピー ニキビ   病後回復などに広く使用。 
  • 加味逍遥散散(当帰・芍薬・柴胡・白朮・茯苓・生姜・甘草・薄荷・牡丹皮・山梔子)  
    いわゆる血の道の代表処方で肝気上逆「何事もきちんとしていないと気がすまず、苛立つ」タイプに適応。婦人一切の訴え、神経症状の訴えに用いてよく効く。世間の医者は婦人の病というと殆どこの処方を用いた。
    この方の目標は月経が不調になって、熱のふけさめがあり、午後になると逆上して両頬が赤くほてるというものによい。
    あるいは婦人性質、肝気たかぶりやすく、性状、嫉妬深く、どうもすれば火気衝逆して面赤く、まなじりつり、発狂でもしようという証にもよし。また、転じて男子に用いてよし」
臨床応用
血の道、婦人科疾患、メニエール症候群、精神不安、不眠、舌の辺縁の痛み、口内炎、慢性肝炎、肝硬変、胃痛、便秘、慢性膀胱炎、肝斑など顔面の色素沈着、高血圧、狭心症など
使用目標
胸脇苦満、舌白苔、口苦など柴胡の証があり、腹直筋の攣急があり、便秘がちで、ホットフラッシュ、心松頬赤(むなさわぎがして頬がほてる)を始め、眩暈、ふらつき、頭目昏重、肩こり、イライラ、クヨクヨ、不眠などの血の道症状、顔面の肝斑や色素沈着、毛細管拡張 舌下静脈の拡張、舌の於斑、下腹部の瘀血を示唆する抵抗があり、神経質で訴えが絶えなく、身体の疲れを訴える。
一般に痩せ型で骨細のものが多い。
主に中年の女性に用いるが、神経質な男性にも適応がある。
鑑別処方
滋陰至宝湯
柴胡が配され、加味逍遥散に近い、処方であるが、麦門冬が配され、燥熱を滋陰する効果がある。昔、肺結核に用いられた処方で、寝汗、咽のイガイガ、渇き、眼の乾燥、皮膚のかさつきを目標に使用する。今日、使用の機会が多い。
加味帰脾湯
心虚症状、胃腸虚弱、下痢
六味丸
ホットフラッシュが陰虚火旺に因ることを最近、よく見受けます。顔のほてり、発汗過多を目標に使用
  • 女神散(当帰・川芎・白朮・香附子・桂枝・黄耆・人参・梹榔・黄連・木香・丁香・甘草・大黄) 「元、安栄湯と名づけて戦場で武士の刀傷、神経症に用いた薬方であるが婦人の血症に用いて特験あるをもって今の名とす。血症、上衡、眩暈するを治す、及び産前、産後、通経の剤なり」(勿誤薬室方函口訣)
臨床応用
のぼせ、眩暈を主訴とする血の道で精神の違和を認めるもの、もともと戦陣で武士に用いた処方であり、今日も、企業戦士の男性に用いる機会が多い。肩こり、不眠、鬱病 高血圧、高脂血症、脂肪肝など諸疾患にも使用の機会がある。
使用目標
比較的体力のある、がっしりした身体つきで黄連の適合する赤ら顔で、腹力があり、心下硬、下腹部に瘀血を示唆する抵抗と圧痛、のぼせの症状がひどくて眩暈、動悸、不眠を訴える、訴える症状が固定的である。
他の処方との鑑別
加味逍遥散
一般的に痩せ型で骨細、華奢な体つき、訴える内容がどんどん変わる、逍遥する、胸脇苦満、口苦など柴胡の証がある
当帰芍薬散
青白く浮腫んだ顔をし、冷えを訴える
桂枝茯苓丸
がっちりした身体つきで赤ら顔であり、下腹部に瘀血、両腹直筋の攣急が認められる、心下硬なし、一般的には精神の違和、神経症状が少ない
 
加味帰脾湯(当帰・柴胡・白朮・茯苓・生姜・甘草・山梔子・人参・黄耆・大棗・木香・酸棗仁・龍眼肉・遠志)
帰脾湯「四君子湯加減方」に柴胡、山梔子を加味した処方。
元来胃腸虚弱体質の者、あるいは大病後に衰弱している時などに過度に精神を労してその結果、不眠、健忘、貧血、心気亢進あるいは出血などの症状のあるものに用いる。
血の道の代表処方である加味逍遥散より一層、虚状を呈し、脾胃虚弱、心気虚となっているのに適応。
臨床応用
血の道、不眠、体調不良、アトピー性皮膚炎、喘息、気管支炎、高血圧、膀胱炎、帯下、ベージェット病、血小板減少性紫斑病など
使用目標
胸脇苦満、口苦、舌白苔など柴胡の証のあるもので、胃腸虚弱(食べ過ぎると下痢しやすい、胃がもたれやすい、太れない)症状と心気虚(疲れやすい、ぐっすり寝れない、夢ばかり見る、取り越し苦労)症状があるもの
 
 
帰脾湯
     加味帰脾湯証と比べ、胸脇苦満、口苦、舌白苔など柴胡の証が無いものに使用
 

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