漢方治療の基本

気血両補剤

気血両補剤

気血両補剤とは

気血両補剤とは臓腑機能が全般的に衰え、気血両虚となったときに胃腸の働きを良くし、滋養強壮して自然治癒力を高める薬をさします。
補気剤+補血剤=気血両補剤

気血両補剤の基本薬と薬方の展開
四君子湯+四物湯=八物湯、八珍湯が基本

人参・甘草・生姜・白朮・茯苓・大棗・当帰・芍薬・川芎・地黄
気血両虚が著しい時は基本薬を投与。桂枝・防風などの解表剤が配された十全大補湯などは身体に強すぎて逆効果になることがあります。
(上焦・中焦の冷えが強いときは人参湯+四物湯にするとよい<伊藤浩史先生>)

十全大補湯

人参・甘草・白朮・茯苓・黄耆・桂枝・当帰・芍薬・川芎・地黄
気血、陰陽、表裏、内外など、みな「虚したもの」を大いに補うという意味

人参養栄湯

十全大補湯証より一層、気血虚し、心虚に陥っているものに使用。

大防風湯

気血虚し、下肢の運動障害のあるものに使用。慢性関節リウマチによく用いる。中年以降の腰痛、神経痛、高血圧ばかりでなく、広い世代の花粉症、アトピー性皮膚炎、無月経など諸疾患に用いる。

灸甘草湯

気血虚し、心動悸し、脈欠滞するものに用いる。肺熱燥を治す麦門冬が配されている。風邪が治りきらず、のどが変で咳き込み、乾き、動悸する時に使用しますが、中年以降の腰痛、膝関節症、高血圧などに対して特に効果を発揮します。

十全大補湯について

十全大補湯とは諸種の病後、術後あるいは慢性病などで体力、気力ともに衰弱したものを大いに補うものです。

十全大補湯  四物湯+四君子湯加黄耆・桂枝

人参・黄耆・朮・茯苓・当帰・芍薬・地黄・川弓・桂枝・甘草

十全大補湯の使用目標と鑑別

全身の衰弱、疲れやすさ、微熱、自汗、皮膚の枯燥、胃腸虚弱
四君子湯六君子湯との鑑別 ⇒ 便秘の傾向と両腹直筋の緊張
補中益気湯との鑑別 ⇒ 胸脇苦満なし

十全大補湯の適応疾患

産後、手術後、病後の衰弱、抗癌剤や放射線療法の副作用防止。
長引く風邪、気管支炎、慢性疲労、食欲不振、便秘、腰痛、高血圧、湿疹、アトピー性皮膚炎、痔瘻、慢性関節リウマチなどの膠原病や結核など。

人参養栄湯について

人参養栄湯は十全大補湯証より一層気血虚し、心虚に陥っているものに使用します。
特に諸種の病後、術後あるいは慢性病などで体力気力ともに衰弱し、心肺気虚に陥ったものを養い起死回生させます。

人参養栄湯  十全大補湯去川芎遠志、陳皮、五味子

人参・黄耆・朮・茯苓・当帰・芍薬・地黄・桂枝・甘草・遠志・陳皮・五味子
遠志 … 心を補い精神を安定させる
五味子 … 肺を温める
陳皮 … 気を晴らす、鎮咳、去痰

人参養栄湯の使用目標と鑑別

全身の衰弱、疲れやすさ、微熱、自汗、皮膚の枯燥、胃腸虚弱
四君子湯六君子湯との鑑別 ⇒ 便秘の傾向と両腹直筋の緊張
補中益気湯との鑑別 ⇒ 胸脇苦満なし
十全大補湯との鑑別 ⇒ 心悸亢進、息切れ、咳、不眠、イライラ、クヨクヨ、のぼせ、健忘が顕著。

人参養栄湯の適応疾患

産後、手術後、病後の衰弱、抗癌剤や放射線療法の副作用防止。
長引く風邪、気管支炎、慢性疲労、食欲不振、便秘、腰痛、高血圧、不眠、更年期障害、神経衰弱。
全身エリテマトーデスなどの膠原病、シェーグレン症候群や結核など。

大防風湯について
(四君子湯加黄耆・四物湯・防風・羌活・杜仲・牛膝・附子)

和剤局方、諸痛門に記載されている処方で、慢性に経過して虚状を帯び、貧血気味になった人の下肢の疼痛、運動麻痺に用います。

使用目標

気血両虚(全身の衰弱、疲れやすさ、顔色が悪い、血の気がない、皮膚の乾燥)
関節などの疼痛や運動麻痺

十全大補湯との鑑別

十全大補湯は気血両補に優れている。
大防風湯には附子が配され、痛みや痺れ、麻痺を治す効果に優れている。
大防風湯には牛膝が配され、軽い駆瘀血効果がある。
大防風湯は十全大補湯より気血両虚の程度が軽く、駆瘀血できる余裕があるときに使用する。

適応疾患

虚弱となった今日の日本人には従来から用いられてきたように慢性関節リウマチ、老人の腰痛、神経痛に使用する。
この他、気血両虚の認められる広い年代の諸疾患に対しても著効が認められる。
例)花粉症、アトピー性皮膚炎、無月経など

炙甘草湯について
(炙甘草・生姜・人参・大棗・桂枝・地黄・阿膠・麻子仁・麦門冬)

別名、腹脈湯といわれる。
病後、気血両虚し、心動悸、脈結代する人に用います。
心配の急迫症状えお緩和する炙甘草と肺の燥熱を治す麦門冬が配されています。
心室性期外収縮などの不整脈、心臓神経症、バセドー氏病などに使用されています。

炙甘草湯の使用目標

心動悸、脈結代、心血虚する人に用いるとされ、弱り切って死にそうな人に用いるイメージが強いが、頑張り過ぎて疲れ果てた「気血両虚」、「麦門冬が必要と思われる症状」の人の風邪薬、咳止め、疲れ取り、高血圧、肩こり、腰痛、膝痛、イライラ、不眠、高血圧、肥満など広く用います。

麦門冬湯との鑑別

麦門冬が配されていますが、麦門冬湯は補気剤であり、下痢に傾きやすいが、炙甘草湯は気血両補剤で便秘の傾向がある人に用います。
 
 

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