漢方治療の基本

気血水

気血水付録

木・肝・胆を五行からみた証

春になり草木が芽を出し、季節風が吹く頃になると体の調子が悪くなる人は肝、胆を病みやすい。

風が吹くと気持ちが悪い、窓を閉めたり、扇風機の風に当ることをいやがる。木は風によって揺れ動く、身体でも風邪によって、めまい、体がふらつくのは全て木に属す。

げんは、体全体が筋張って痩せ型の人に該当する。このような人の脈を診ると、一般に張りつめて力強い脈を呈している。これを弦脈という。ちょうど木の枝をみると筋があるようにみえるのと同じである。

精神労働による過労後、不眠、睡眠不足後あくびをすると涙が出やすい時は肝が乱れている。悲しくて涙が出るのとは違う。

目の病気のある人は肝経の証とする。目が充血、炎症、目やに等を呈する場合は肝実証で、目がはっきりしない。眼力減退、眼精疲労等を呈する場合は肝虚証が多い。

木の葉は青いという考え方から、人体でも木経の人、木経を病んでいる患者は青色を呈す。貧血症でめまいあり、チアノーゼ等を呈するものは虚証で、青筋を額に現わし怒りっぽい。血が上昇しやすく、熱がある場合は実証である。

木経に変動あるときは、よびさけぶという特徴が現われる。これは大きな声で話したり、命令したり、人をよく呼びつける。病気時において大げさに苦痛を訴える。

角音といって、これは奥牙より発する声音で、力強く、興奮したような声音を発する人、カ行、ガ行に相当する。

これはスジと読む、体で筋というと、腱、筋膜、末梢神経等に相当し、木経を病んでいる人はよく筋を病みやすい。いわゆる神経痛になりやすい人。

すっぱい味覚のことで、木経の証になると、やたらに酸っぱい食品を欲求、飲食する。

目が疲れているにもかかわらず、よく本を読んだり、小さい物がよく目につく。散らかしているととても気になり、自分で片付けないと気がすまないような神経質な人。

あぶらくさいと読む、木経の病変の患者は、皮膚がぬるぬるしてべとついたり、顔面が油をぬったようによごれた感じのする人は膩という。徹夜した後の顔面はそのよい例で、木経の証を呈していることになる。

自然界では木の芽の末端に相当し、爪の色が青くつやがなく変形したり、崩れたりする場合は、木経の虚である。神経質な人の爪は縦に筋がある。

おこる、どなる、いらいらするの意味で、普通は何でもない人が、木経を病むと小さなこと、一寸したことに急にいらいらしたり、おこりっぽくなる時等である。

木経の証ではよく筋が引き縮まるので指は伸ばすより縮めていた方が楽である。

火・心・小腸・心包・三焦を五行からみた証

夏は陽熱が盛んである。火に属する人も陽熱が盛んである関係上、陽熱と陽熱は合わないので、夏は体に合わない。夏になると病気になりやすい人は火経に属する。

熱あれば暑い。火に属する人はよく熱性の炎症性疾患になりやすい。また暑さをとても嫌う。

波のごとく大きい意で、火に属する人は一般に大きく見える。特に洪は脈の種類の中にあり、洪脈は大きく力強く打つところの脈、高熱時の脈は洪脈になりやすい。

火に属する人は普通よく汗が出やすい。汗は体内に陽熱が盛んになった時に発しやすい。熱性の疾患においてはよく発汗しやすい。ところが、火経に属する人が汗の出にくい場合は、よく腫瘍が出来やすい。

舌は言語の発声に必要なもので、火が旺盛な人は舌が動きやすく、よく喋る。2~3才の子供が普通どもっていても、熱が出ると言葉がはっきりするようになる。火が虚衰すると、舌が廻らず、とぎれとぎれして話したり、よくどもる。

火は赤い。火に属する人は陽性が多く、熱性の病変が多く、熱が多ければ赤色を呈しやすくなる。

陽気が盛んになると笑うの現象が現われ、陽気な人はよく笑う。普通笑わないような人でも酒を飲むと陽気に笑い出したり、高熱が続いていると気が狂い笑い出す場合がある。

徴音といって音階を現わす、火経の人、またはこの病変になると舌がよく動く声音を発しやすくなる。それはタ行、ラ行で舌音を発する。

血脈

火経の人は循環器の障害を呈しやすい。血脈は循環器に該当する。

火熱が旺盛になると熱が現われ口が苦くなる。火の人、火経を病んでいる場合はよく苦いものを欲しがる。食品では緑茶に相当する。茶の輸入伝来の意味は、茶は苦い食品で火を強め、火が強まれば長寿になるという、中国では不老長寿として用いられていた。

陽気の盛んな人は静かにしていることが出来ない、じっとしておれない、何時も動いている人。

高熱時の患者はこげくさい臭を発すという、よく汗を出す人は汗くさい。これが焦に相当する。

陽の盛んな人は喜びとしての性質を持っている。喜びは陽で、反対に悲しみは陰である。

うれえるで、心配ごとが多く苦しむ。現在あるノイローゼ、神経衰弱時の患者では火経の虚の状態が多い。

土・脾・胃を五行からみた証
土用

暑が続いて湿度が多い気候になると、体がだるく、疲労しやすい。

湿

リウマチとか関節炎を起こしている場合は湿邪にて障害されたものとしている。だからとして土経の人は湿を憎むという。

ゆるやか、柔軟の意で、土に属する体は肉がよくついて、ゆるやかで柔軟な感じがする。このような人は脈診において緩脈を呈しやすい。

よだれと読む。土経が異常を呈すると涎が出やすい。特に子供、赤ん坊は胃腸が特に発達して、体の他の部分との調和が取れず涎が出やすい。大人でも極めて肉体労働時疲労した時、昼寝時において涎が出やすい。

土経の変調はよく口に現われる。口の周りが乾いたり、ただれたりする時は脾胃に熱がある。

筋肉労働にて疲労すると体にやや黄味かかった色が現われる。黄疸は土経の治療をすることになっている。

土経に属する人はよく歌う。土経は肉がつきやすく柔軟で、一般に緊張がない。身の緊張がなくなると気分が開放的になり歌いたくなる。ところが、胃熱が続いていて、歌いだす精神異常が起こるという。

音階の宮音で、咽より発するところの低くにぶい声で、ア行の音階。

肌肉

脾胃の旺盛な人はよく皮下脂肪、筋肉がよくつきやすく、虚弱な人はそれが少なく痩せやすい。

甘味は脾を養い、脾は肉を生ず。土経の発達した人はよく甘い食品を食べる。また疲労時、甘いものを欲しがる時は脾虚を呈している。

土経の旺盛な人は乳がよく発達している。主に胃経に属し、胃虚の人は肉が少なくよく痩せ、乳房も小さい。乳汁不足になりやすい。逆に胃の実証では乳が大きく、場合によっては乳腺炎になりやすい。

同じことを繰り返して考えることで、内向性になりやすい。あまり思い込むと脾胃の働きが悪くなり食欲がなくなる。恋煩いはそのよい例である。

しゃっくり

胃が乾いたり、食物に水分が少ないとしゃっくりが出やすい。

金・肺・大腸を五行からみた証

金気の旺盛なのは秋である。陰の要素が多くなるので、自然界では物が乾いて草木が枯れ始め、枝が現われ、空気は乾燥し、呼吸器疾患になりやすい。秋になると体の調子が悪くなるのは金経に属する。

秋は乾燥しやすく、皮膚が荒れる。特に肺の働きが弱まると皮膚が乾いて荒れ、呼吸に異常を呈しやすい。

しょく

渋滞すること。しょく脈といって脈が渋滞し、滑らかさがない場合で、皮膚においてもカサカサして、フケが出やすい。

はなしるである。肺経を病むとよく鼻汁が出やすい。

金経に異常を呈すると鼻に虚実を現わす。いわゆる鼻疾患は金経の治療を中心に行う。

白色は金気の色とし、肺は天より気を受け、その気よく循れば色もまた良し。ところが肺気衰えれば気の循りが悪く肌皮が白くなる。

なげきかなしむという。肺がしめつけられると悲しみやすくなる。火の陽気に対し反対の陰気を発する。

皮膚は肺が主る所、肺虚になると皮膚の働きが悪く外邪によって冒されやすくなり、よく感冒にかかりやすい。皮膚の病気は金経の治療が中心になる。

商音といって歯から発するところの音階である。やさしく会話する人で陰証に多い。

からい、刺激性のある辛味あるものである。肺経の異常があると辛い食品を欲する。北方の国では辛い食事が多い。

多く咳が出る人は伏せるようになる。金経の患者は慢性的に陰証を呈している場合が多く、陰が多いと動きたくない。ただ横になりたいので伏という。

なまぐさいと読む。咳がよく出たり、痰がよく出る患者の息はなまぐさい臭いがする。

肺経の証があると呼吸に異常を呈しやすい。

せきで、咳嗽ある場合はほとんど金経の証を呈している

水・腎・膀胱を五行からみた証

冬期は自然界において陰の要素が旺盛で、体が冷えやすい。冬期体の調子が悪くなる場合は水経に属す。水経患者は下腹部、腰部の異常、婦人科系疾患、冷え性等の疾病になりやすい。

冬は寒が激しく冷えやすい。これは陰の要素が多いからであり、大気が冷え込む。このような場合、陰証の患者は特に病みやすい。

なめらか、水経の人は皮膚が冷たく、水分を含んだようですべる感じがする。このような患者は脈においても弱く沈んで滑脈を呈しやすい。

つばき、唾液のことで、腎経を病む口に唾液がたまりやすい。特に会話中、口角にあふれる人は、慢性的に腎を病んでいる場合が多い。

高齢になり腎気が衰えると難聴になりやすい。聴覚が機能的に低下した場合は腎経を中心に補うべきである。腎は耳を主どるという。

長い間腎に障害があると、皮膚、顔面部が黒く色素沈着を呈しやすい。色の黒い人は腎とみる。このような点では現在の副腎皮質機能低下と関連があるようである。

うなる、うめしの意で、下腹部に病気があると呻りやすい。特に下腹部疼痛時は呻る表現が多くなる。長い間病床生活で呻る患者は腎が極度に虚証を呈しているので死期が近い。

羽音という音階の一つで、口唇より発するところの力のぬけたようで、はっきりしない会話のする人、長い間会話すると非常に疲れやすく、言葉がうわずってくる。ハ行に属する。

腎は骨を養う。腎虚の人は骨が細くて円い。

塩辛いものをよく食べる人は腎を病みやすい場合が多く、腎は鹹より養われるという。

腎は腰を主るゆえ、腎の虚実によってよく腰痛を起しやすい。腰痛の患者は腰掛けたり、寝たり起き上がったりするのが悪く、立っていた方が楽な場合が多い。

嗅いとしてくされくさいという、これは慢性の婦人科疾患、生殖器疾患、足の蒸れ臭い等の時は腎の証とみる。

髪の毛は腎に相当し、特に毛が濃く黒で線が太く硬い髪の毛のある人は婦人科に異常がある。

おそれるで、ある物に常に注意を向けている状態が恐れるで、恐れ過ぎると腎を傷害するという。現在ではストレスに相当し、積り重って副腎機能低下を呈するストレス病になりやすい。

腎虚の患者は非常に驚きやすい。下半身に力のない人は驚きやすい。驚いて腰を抜かし声が出なくなるのは全て腎と関係がある。

ふるえるで、陰の要素が多くなると冷えて寒がり慄えて来る。これは陰極まってまた動くの状態である。
 
 

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