漢方治療の基本

清熱瀉下剤について

清熱瀉下剤について

清熱瀉下剤とは
下して病邪を排出し、解毒して病気を治す薬

赤ちゃんの発熱がなかなか下がらないとき,浣腸して便通をつけると,途端に解熱して機嫌がよくなることがあります。このような病態は『傷寒論』では陽明病と呼ばれ,便を下して裏熱を瀉下する(移動させる)清熱瀉下剤を投与することで解毒し,病態を改善します。
『傷寒論』には,「陽明の病たる,胃家実是れなり」とあり,また「陽明病,脈遅,汗出ずといえども,悪寒せざるものは,其の身必ず重く,短気,腹満して喘し,潮熱あり中略,手足濈然として汗出る者……」との記載があります。つまり,陽明病とは,かぜなどの急性病の極期で病邪が裏にこもり排除されず,膠着状態となっているものです。症状としては,高熱・無悪寒・発汗・便秘・腹満・脈沈で有力・うわ言・舌紅で黄苔があり,乾燥・顔面紅潮や暑そうな様子・口渇・冷たい水分を欲しがる・尿は黄赤色で量が少ないなど,生体防衛反応が過剰亢進している病態を示します。陽明病には,大黄や黄連などの清熱瀉下薬の配された清熱瀉下剤を投与します。その他,便秘・打ち身・蕁麻疹・精神病・不眠・高血圧・喘息・脳出血などの雑病で陽明病と判断したときにも使用します。
清熱瀉下剤とは,ごく大雑把には西洋医学の解熱薬・下剤・消炎薬・抗精神病薬・降圧薬・抗アレルギー薬などに相当するものといえます。また、体内の毒を排除することで、種々の臓器の慢性炎症性疾患やがんなどに対しても、西洋医学の常識では考えれないような眼を見張る効果を実感することもあります。西洋医学が華々しく進歩した今日でも,漢方の清熱瀉下剤はきわめて有用な手段の1つであると思います。
表1 清熱瀉下剤の使用目標

・顔面紅潮、発汗、暑そうな様子。
・口渇があり、冷たい水分を欲しがる。
・無悪寒。
・便秘、腹満。
・脈沈で有力。
・舌紅で黄苔,乾燥。
・尿は黄赤色で量が少ない。
・興奮しやすい、不穏や燥感など,強度の陽性の精神症状。
・食欲良好で食べすぎる
・胃腸が丈夫。

 
防衛反応が活発に働いているが、ストレスが何らかの原因で裏に入り込み排除されず代謝異常亢進状態となっている
図2 陽明病(裏熱実)

大承気湯や黄連解毒湯のような,大黄あるいは黄連が配された清熱瀉下剤で裏熱を下して,ストレス(毒)を排除する。
 
表3 清熱瀉下薬

  気味 帰経 効能 備考
黄連 苦・寒 心・脾・胃・肝・胆・大腸 清熱瀉火・清熱燥湿 主に心の熱,脾胃の熱を取る。
黄芩 苦・寒 肺・大腸・小腸・脾・胆 清熱瀉火・清熱燥湿 主に肺の熱を取る。
黄柏 苦・寒 腎・胆・膀胱 清熱瀉火・清熱燥湿 腎の伏火を取る。伏火を瀉すことで腎陰の消耗を防ぐ。
山梔子 苦・寒 心・肺・肝・胃・三焦 清熱瀉火 血熱を取るのに適しており,充血性の炎症を鎮める。
石膏 辛・甘
大寒
肺・胃 清熱瀉火・退熱生津 甘味には緩めたり,溜めたりする性質があるため,津液を生み出し,潤いを与え,胃や肺など中焦や上焦の熱を取ってくれる。また,苦味の性質もあるため,表から熱を発散させる。
大黄 苦・寒 脾・胃・肝・心包・大腸 清熱瀉火 主に胃腸の熱を取り,通便を図る。血熱を鎮め,瘀血を除く作用もある。
芒硝 鹹・苦・寒 胃・大腸・三焦 瀉熱通便・潤燥軟堅 胃腸や三焦の実熱を洗い清め、燥屎を除去する。

 
 
 
表2 清熱瀉下剤の適応症状・疾患

高血圧・脳血管障害・糖尿病 七物降下湯合釣藤散・竜胆瀉肝湯(一貫堂)・加味四物湯など
(多くは清熱瀉下剤+駆瘀血剤+補血剤などの複合剤を使用)
精神神経疾患で強い陽性症状
(興奮状態・焦燥感が強い.躁状態.頭に血がのぼっている)
三黄瀉心湯・黄連解毒湯・大承気湯・女神散
虫刺され・関節の腫脹・打撲 越婢加朮湯・治打撲一方
二日酔い(酒毒)・アレルギー・急性感染症 黄連解毒湯・白虎加人参湯・木防已湯

 
 
 
 
熱邪が体内深く、血分に入り込んだ重症感染症で高熱、意識障害、煩燥、痙攣発作のあるとき、熱射病や日射病、肝性昏睡、尿毒症、脳血管障害などの意識障害のあるときは麝香・牛黄などの芳香開竅薬と犀角、羚羊角などの熄風鎮痙薬を使用します。
(日本では救命丸、救心ウサイエンなどの名前で民間で良く使用されています)

清熱瀉下剤の使用上の注意

急性発熱性疾患で、まさに裏熱実で清熱瀉下剤の適応と思われても実際は裏寒外熱、真寒仮熱のことがあります。臨床症状で、紙一重の差でどちらであるか判断することが多いのです。
裏寒外熱、真寒仮熱を裏熱実と誤り清熱瀉下剤を投与すると効果がないばかりか、ショック状態をも引き起こしかねません。迷った時には温裏剤をまず一服投与してより考え直した方が安全です。
 
清熱瀉下薬
清熱瀉下薬には黄連・黄芩・黄柏・山梔子・大黄・芒硝・石膏などがあります。ただし,これら清熱瀉下薬を使う上で気をつけなければならないことは,裏寒や気虚に陥らせないことです。冷やすことで陽気を損傷してしまい,一歩間違えば命に関わることにもなります。そのため,冷えている人や脾胃が弱っている人には特に長期的な運用を避け,身体の状態を見きわめながら使用する必要があります。
 
代表的な清熱瀉下剤
三黄瀉心湯
構成生薬:大黄・黄連・黄芩。
黄連解毒湯
構成生薬:黄芩・黄連・黄柏・山梔子。
一般的にはいわゆる実証で,上焦に実熱があり,顔面が赤く,血がのぼり,烈しく興奮し,不安・不眠・焦燥感・心下部の痞塞感があり,脈に力のある人の精神疾患や神経症・高血圧・脳卒中・各種出血・皮膚病などに使用します。
精神科の松橋俊夫先生(松橋俊夫クリニック・尾張旭市)は黄連解毒湯は,陽性の精神神経症状があるが、便秘していない男性に用いる機会が多く,便秘して症状が急迫していれば三黄瀉心湯が効くと説明されています。内科医である私は急性期の精神疾患を診る機会がないため,三黄瀉心湯や黄連解毒湯を精神疾患に用いたことはありません。黄連の配された処方としては,松橋先生が寛解期の処方とされている女神散を精神症状によく使用して,効果を実感しています。
 
大承気湯
構成生薬:厚朴・枳実・芒硝・大黄。
『傷寒論』には,急性熱性病の経過中,熱が高いのに脈が沈遅で力あり,汗が出ていても悪寒も悪風もなく,腹部が膨満・充実して便秘し,手足からも汗がじとじとと出る陽明病期に用いる処方であると記述されています。その他,高血圧や眼科疾患・常習性便秘・がんなどに使用されます。また,女性の急性精神疾患などで陽性の精神神経症状が甚だしく,下腹部や腹部全体が充満している場合に使用の機会があります。1日に何回か排便することで精神症状が改善することが少なくありません。しかし1日1回の排便に調整すると,幻覚・妄想などの精神症状が再燃する場合があるので,注意を要します。また,桃核承気湯(桃仁・桂枝・芒硝・大黄・甘草)は,瘀血が原因で精神不安に陥っている場合に用います。幻覚や妄想などの精神症状がある場合は大承気湯が適しています(漢方精神医学入門 金剛出版 松橋俊夫先生)。
 
治打撲一方
構成生薬:川芎・樸樕・川骨・桂枝・甘草・丁子・大黄。
打撲による腫脹・疼痛に使用する有名な処方です。西洋医学の消炎鎮痛薬より効果が高く,陳旧性の打撲には附子を加えると効果が高いとされています。
 
女神散
構成生薬:当帰・川芎・朮・香附子・桂枝・人参・檳榔子・黄連・木香・丁子・甘草・黄芩(浅田家方では大黄が加わる)。
『勿誤薬室方函口訣』に「元,安栄湯と名づけて軍中(戦線にて)七気(神経症)を治する方なり。余が家にて婦人血症に用いて特験あるをもって今の名とす。血症,上衝,眩暈するを治す。および産前産後通治の剤なり」とあります。女神散は中国にはない処方です。もともとは武士が戦陣で刀傷を負い,錯乱状態になったときに急いで熱湯で振り出して服用させた処方であり,女性ばかりでなく,今日の企業戦士の男性にも使用の機会があります。
一般的には体力のある,がっしりした身体つきで,赤黒い顔(色白のこともある),腹力があり,のぼせ・眩暈・動悸・不眠などを主訴とし,肩こり・うつ状態・高血圧などのある血の道症に用います。心下痞鞕,下腹部に瘀血を示唆する抵抗と圧痛があること,主訴が固定的であることを目標とします。
 
加味四物湯
構成生薬:黄柏・黄連・知母・杜仲・麦門冬・五味子・当帰・川芎・芍薬・地黄・蒼朮・人参・牛膝。
『医学正伝』痿症門に「諸痿,四肢軟弱,挙動する能わざるを治す」とあります。温清飲に近い処方ですが,温清飲のように上盛下虚となり四肢軟弱となったものに対して,上焦の実熱を瀉するだけではなく,麦門冬・知母などで津液を潤すことにより強く下部に作用します。さらに杜仲・牛膝を加味して下虚を治す処方です。脳出血後の後遺症・小児麻痺・脊髄癆などにも応用されます。
 
七物降下湯
構成生薬:当帰・川芎・芍薬・地黄・釣藤鈎・黄耆・黄柏。
補血剤である四物湯に,清熱瀉下薬の黄柏(主に下焦の湿熱を除去する作用)と釣藤鈎・黄耆を加味した処方です。大塚敬節先生の経験方で,疲れやすくて,最低血圧が高く,尿蛋白が陽性で,高血圧性腎症の疑いのある人や,腎炎のための高血圧症のある人に使用します。大塚敬節先生が自らの高血圧性眼底出血を治された処方でもあります。方剤中の釣藤鈎は,肝気を平らかにし,脳神経の異常興奮を抑える効果があります。今日では携帯電話やパソコンなどの電子機器の使いすぎで,肝気が高ぶって興奮し,首や肩のこり・眼の疲れ・眩暈・不眠を訴える,幅広い世代に使用の機会があります。私は七物降下湯に後述の釣藤散を合方することが多く,メニエール病・不眠・自律神経失調症・高血圧・脳動脈硬化・物忘れなどに使用して効果を実感しています。
 
釣藤散
構成生薬:石膏・釣藤鈎・陳皮・半夏・麦門冬・茯苓・人参・菊花・防風・甘草・生姜。
気が上逆したために,頭痛・眩暈・肩背拘急・眼球結膜の充血・神経症などが起きた場合に使用します。釣藤鈎で肝気を平らかにして,脳神経の異常興奮を抑え,菊花・陳皮・半夏・麦門冬で気の上逆を下し,石膏でうつ熱を冷ますよう配慮されています。中年以降の脳動脈硬化症で,早朝の頭重や頭痛などに投与するイメージが強いのですが,若い人でもパソコンや携帯電話などの電子機器の使いすぎから,肩・首・頭に気が上逆しやすく,使用の機会がきわめて多いように感じられます。
 
木防已湯
構成生薬:石膏・防已・人参・桂枝。
心疾患などでうっ血性心不全に陥り,心下痞堅し胸膈内の停水をきたし,呼吸困難・浮腫・尿不利・口渇の症状があるときに用います。石膏が防已とともに胸膈の水を追い,胸膈の熱を冷まします。
久保重喜先生(三都ブレインクリニック・神戸市)は,「今日では,肥えていていびきが強く,心下痞堅があり,胸膈内に停水をきたして潜在的に心不全に陥っていると思われる人の睡眠時無呼吸症候群などにも使用の機会があると述べています。適応となる患者は,隠れた裏寒を認めることが多く,真武湯と合方して心不全や心臓喘息を始め,長引くかぜ・下腿浮腫・体調不良などに応用しています。
 
 
 
瘀熱に対する漢方薬
茵陳蒿が配され、いわゆる瘀熱と称する内部にこもった古い熱を去る漢方薬

茵陳蒿湯(大黄・山梔子・茵陳蒿)

黄疸・肝炎・蕁麻疹・口内炎・ネフローゼ症候群などに使用

茵陳五苓散(茵陳蒿・沢瀉・茯苓・蒼朮・猪苓・桂枝)

黄疸 肝炎 蕁麻疹 二日酔い他、於熱を強力に去ることが出来ない時に使用します。
三陽の合病に対する薬
三陽合病、腹満…口不仁にて面垢き、譖語、遺尿す…白虎湯これをつかさどる。桂枝湯を服し、大いに汗出でて後、大煩渇解せず、脈洪大の者は、白虎加人参湯これをつかさどる

白虎加人参湯(石膏・知母・粳米・甘草・人参)

のどのかわきほてり、多尿のある糖尿病、アトピー性皮膚炎などに使用します。

その他
治瘡一方(大黄・忍冬・紅花・荊芥・連翹・防風・川芎・蒼朮・甘草)

乳児の頭瘡・アトピー性皮膚炎に使用
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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