漢方治療の基本

温裏剤

温裏剤(人参湯・真武湯など)

人参湯(人参・白朮・甘草・乾姜)について

現代医学にない漢方医学の最大の利点は裏寒の治療法を持つところにあります。
漢方エキス剤での治療は人参湯が裏寒のファーストチョイスの薬になります。
漢方医学で一番応用範囲が広くて重要な薬方でもあります。

 

人参湯の使用目標

裏寒・胸中痞・心下硬・腹部軟弱・腹部板状に硬いこともある。
一般的には胃腸虚弱にて、やせて筋力が弱く、下痢しがちで唇の色が薄い人に使用

人参湯の使用上の注意

気を上げ水を上げ益気する作用のある甘草や白朮が配され、水を下げる茯苓が入っていない。
気や水が上がり過ぎてイライラ・のぼせ・ふらつき・不眠・高血圧などを来さないよう注意して使用する必要がある。

真武湯との鑑別

真武湯には芍薬が配されているため、下腹部に滞り(右上腹部のガス満・腹筋の緊張)が認められるものに用いる。甘草乾姜湯や四逆湯類と同様に人参湯には芍薬がなくて甘草と乾姜が配されている。
「傷寒論」では生体を救うためにすべきことは、まず第一に甘草乾姜湯や四逆湯類を使用し、甘草で気を上げて、全エネルギーを心肺や脳に移動させ、心肺や脳を守り、自然治癒力を高めることであると説いているが、エキス剤治療では人参湯がその代理をすることとなります。
人参湯は甘草乾姜湯や四逆湯類と同様に、上焦(心肺)の裏寒の薬方であると同時に、胃や腸のトラブルを静める中焦の裏寒の薬方と言えます。

人参湯の臨床応用
  1. 風邪
    • 風邪のごく初期で鼻水を出していたり、咳をしている時
    • 喘息性気管支炎
    • 風邪をひくと食欲がなくなったり下痢気味になる
    • 近年流行している吐き下しをする感冒性胃腸炎で顔色の悪い時
  2. 胃腸虚弱・胃腸炎・胃潰瘍など
    • 胃がもたれる
    • 胃が痛む
    • 食欲がない
    • 少ししか食べれない
    • 下痢する時
  3. 自家中毒・つわり
  4. 胸痛・肋間神経痛・心臓病・喘息
  5. 尿意頻数
  6. よだれ・水様性鼻水・水様性帯下
  7. 乳幼児の諸疾患
    • 乳の飲みが悪い
    • 食が細い
    • 発育不良
    • 不消化便
    • 下痢
    • 風邪
    • 鼻ぐずぐず
    • 風邪をひきやすい、治りにくい
    • 喘息
    • アトピー性皮膚炎
  8. 腸出血・吐血・喀血・子宮出血
  9. 神経症
    • 細かいことにクヨクヨする
    • 不眠
真武湯(茯苓・芍薬・乾生姜・白朮・附子)について

真武湯の別名を玄武湯と言います。玄武は北方の神で陰を司り、水病を治するというのが名前の由来です。

真武湯の使用目標

裏寒・水毒症状…眩暈・ふらつき・身体の重さ・だるさ・むくみ・しびれ・小便不利
青黒くむくんだ顔・皮下の水気・舌苔なく表面に水気あり
⇒右下腹部のガス満・右背部の肝臓の裏辺りのつっぱり(伊藤浩史先生による)

真武湯の使用上の注意

新陳代謝を上げる薬なので長期間使用すると熱が身体にこもり過ぎて、不眠・高血圧などを起こす可能性がある。

人参湯との鑑別

人参湯は胸中痞、心下痞を目標に用いて、単純には上焦(心肺)や中焦(脾胃)の裏寒をとる薬方と言えるのに対して、真武湯は下焦(腎膀胱)の裏寒をとる薬方で腹診上、多くは上腹部の滞りはなくて右下腹部にガスを認める特徴があります。湯液治療では考えられないことですが、エキス剤治療では人参湯と真武湯を交互に使用して、実際は良い結果を得ることが多くあります。

真武湯の臨床応用
  1. 風邪
    • 喉の痛みにより始まる風邪(喉と腎とは深い関係がある)
    • だるさ・眠さで始まる風邪
    • 発汗しやすく、すぐ風邪をひく
    • 高熱を出しているのに平気でいる・熱のわりに脈が遅い、弱い
    • 熱が下がらない・風邪がいつまで経っても治らない
  2. アレルギー性鼻炎
  3. 夜尿症・女児の膣炎
  4. 起立性調節障害・めまい
  5. 胃下垂・内臓下垂
  6. 低血圧(高血圧)
  7. 心不全
  8. 足のしびれ・指先のしびれ
  9. 体調がすぐれない・身体がだるい・眠い・朝起きが極端に悪い
  10. 低血糖(高血糖)
  11. 甲状腺機能異常・甲状腺腫
  12. 老人などで現代医学の立場からみて、病気の程度はひどくないのに回復が遅い。気力が出てこない。むやみに苦しがる。 

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