漢方治療について‐防衛剤‐
私が漢方医学を始めた当時は漢方薬を日常診療の中で使用することは、かなりアブノーマルな感の強い頃でした。
そんな時に、漢方医学に飛び込んだ訳は、幼い子供を育てながらでは現代医学を追求するのに最適な大病院では働けないことが分かったので、私なりに出来る方法で臨床医学を追求していきたいと強く願ったからです。
漢方医学の奥は深く、まだ道は遠い感がしますが、現代医学と異なる視点から患者さんと疾病を診ることが出来るようになったと思います。
今日は私が漢方医学を始めた頃と異なり、多くの先生が手軽に漢薬を使用されるようになり、喜ばしい限りなのですが、現代医学の薬に病名で、漢方薬を追加して投与されることが多いように思います。医療費の無駄ずかいになっており、又、薬害が心配です。
漢方薬をごくごく大まかに捉えると、いわば攻撃的な薬方と防衛的な薬方とに分けて考えると理解しやすいと思います。
攻撃的な薬方とは、病邪(ストレス)を排除しようと働きかけて治病に導く、いわば現代医学の解熱鎮痛剤・消炎剤などに相当するものです。一方、防衛的な薬方とは、体が機能低下を起こしている時、身体を温めたり、身体に力をつけたりして防衛反応を活発にし、自然治癒力を高めて治病に導く薬方です。
現代医学はウィルヒョウが病気を炎症「発赤、疼痛、腫脹」と捉えたように、補液、輸血など、ごく特殊な治療法を除き、抗生剤や消炎剤、抗癌剤などの強力な攻撃的処方や、手術や放射線治療などの攻めの治療を行っています。そのため攻めの治療で機能低下を来す機会が多くなっています。それに加えて今日の日本人は想像を超えて虚弱化しており、体つきは良くても注意深く診ると機能低下をおこしている方が極めて多くなっています。
現代医学の中で漢方薬を投与する必要性の一つに、機能低下をおこしている生体の、先ずは機能を高めるという、現代医学には無い治療薬である防衛的な薬方を用いる漢方治療が殊に重要となってきています。
「極言すると今日の一般的な漢方治療指針は攻撃剤中心で、現代医学の治療手段の無かったいわば江戸時代の治療指針と言えるかと思います。」
裏寒が顕著に認められる時(代謝低下)は、他の一切の治療は無効である。反って病状を悪化させるだけである。
温裏剤を適切に使用することが漢薬治療にとって一番大切である。
温裏剤はエキス剤治療では人参湯と真武湯である。
後天の気の源は脾胃。脾胃は身体の要、脾胃を整えれば生体の自然治癒力が高まる。脾胃の機能を高める脾胃剤が重要である。
一般臨床において、脾胃剤の使用の機会が多い。
今日の日本人は、、水面下で血虚、陰虚、陽虚、津液不足と呼ばれる、いわゆる陰虚体質に変化しています。
虚弱化した今日の日本人に対して、臨床的には以下の如く、漢方処方を分類すると実用的ではないかと思います。
- 身体を強く温めて代謝を上げ、自然治癒力を高める
温裏剤「生姜 附子」
四逆湯、人参湯、真武湯など - 脾胃の働きを良くして自然治癒力を高める
脾胃剤「人参 黄耆 膠飴」
補気剤 四君子湯 六君子湯など
気血両補剤 十全大補湯 人参養栄湯 炙甘草湯 大防風湯など
建中湯類 小建中湯 黄耆建中湯など - 肝.腎を補い自然治癒力を高める
裏虚に対する方剤 補腎剤.補陰剤.補陽剤.「地黄 芍薬」
芍薬甘草湯 四物湯 .六味丸. 八味地黄丸など - 身体を潤して自然治癒力を高める滋陰剤(麦門冬など)
滋陰至宝湯.滋陰降火湯
「小建中湯や黄耆建中湯などの建中湯類は膠飴が配され、脾胃を温補し、虚労に対処する処方として小児の体質改善の為に良く用いますが、虚弱化した今日の日本人には老若男女を問わず諸疾患に用いて極めて効果の高い薬です。一般的ではありませんが、建中湯類を脾胃剤に分類しました。」
地球環境の激変や生活様式の變化
近年、地球環境は激変しています。一昔前と比べ、野菜の栄養価が著しく減少し、材木の質が年々悪くなっていると言われていることが示すように、地力は弱り、日の光は肌をさすように強くなりました。身土不二と申しますが、人間の身体も、水面下で肝腎要である肝.腎が弱り、身体が干からび、上焦に熱を持つ人が目立ちます。また、生活様式の変化や生活の乱れも影響してわずかのことで裏寒に陥ったり、脾胃を痛めた人も多くなっています。現代人は想像を超えて、身も心も虚弱化しています。。