女性に対する漢方治療
女性には女性の為の漢方薬を
女性は子供を産み育てる役割を持っていますので、男性とは違うからだの働き、心の動きをします。
漢方医学では女性のために独特の薬をたくさん用意し、きめこまかく対処して健康を守ってきました。
近年、ホルモン剤が女性の諸疾患に気楽に用いられていますが、どんなに良いホルモン剤でも本来、最後の手段として使用すべきもので、長期的に見て何らかの副作用が起こるのではと危惧しています。
漢方治療において女性には思春期を迎えるころより生涯を通じて、女性疾患ばかりでなくどんな病気にもまず、女性のために特に工夫された薬方を念頭において治療にあたる必要があります。
漢方医学の立場からみた女性の特徴と治療の要点
- 特徴 1)男性と異なり、女性は冷えに敏感です
治療の要点 …
現代医学には冷えの概念も治療法もありませんが、漢方薬には女性生殖器を温め、働きを良くする漢方薬があり、女性には強い味方です。
男性の生殖器が腹の外にあり、冷やすように配慮されているのに対して、女性の生殖器はお腹の中にあり、冷やさないように配慮されているように、女性は冷えに敏感で、気が頭に上りやすく、冷えのぼせを起こしやすいという特徴があります。冷えのぼせ症状とは、手足の冷え、尿意頻数などの冷え症状と共に、顔のほてり、立ちくらみ、頭痛、肩こり、イライラなど、のぼせ症状が同時に起こることを言います。
これに対して効果が高い代表処方として女性生殖器を温め、冷えをとる当帰四逆加呉茱萸生姜湯があります。その他、当帰建中湯 なども良く用います。 - 特徴 2)女性の体は、「月経」「妊娠」「出産」という独特の働きをするために、「血虚」や「瘀血」を来しやすい特徴があります
治療の要点 …
血は現代医学で言う血液ではなく、身体を構成している全てを総称しています。この血の不足を「血虚」、血が滞り全身の血の巡りが悪くなった状態を「瘀血」といい、現代医学には無い概念で、特別な治療法もありません。しかし漢方医学には患者さんの状況により様々な治療薬を用意し、女性の健康を守ってきました。
血虚に対する治療薬を補血剤といいますが、四物湯、きゅう帰膠艾湯 などが代表処方です。血虚にのぼせ、ほてりが加わった状態を陰虚といいます。六味丸が代表処方ですが、最近の更年期のホットフラッシュは陰虚のことが多く、六味丸を多用しています。また、瘀血に対する治療薬を駆瘀血剤といい、桂枝茯苓丸、通導散、温経湯、芎帰調血飲などが代表処方です。 - 特徴 3) 女性の身体は感情に支配されやすい
治療の要点
… ヒステリーの語源は、古典ギリシア語で「子宮」を意味するところに由来し、子宮が踊るという意味です。子宮は膀胱、直腸の充満状態によって位置を移動させ、本来あるべき所に留まれない状態にあるものを子宮の位置異常といいます。俗に女性は子宮で考えると言いますが、僅かな位置異常が起こると、気が上り、感情が不安定になり、極端に走りやすくなる、ということを言っているのではないかと私は考えます。
このような場合、現代医学では安定剤、抗うつ剤などの適応となるだけですが、漢方医学には心気を補いヒステリーを治す甘麦大棗湯や、「気剤」と言い、気を発散させ気を下げて心を落ち着かせる様々な漢方薬が用意されており、心と体を同時に治療します。
甘麦大棗湯、香蘇散、半夏厚朴湯が代表処方です。 - 特徴 4) 女性には独特の血の道「広義の更年期症状」があります
治療の要点
… 更年期ばかりではなく、産前、産後や卵巣、子宮摘出後や、あるいはそのような経験のない若い女性でも独特の自律神経失調症状が現れることがあります。いわゆる更年期症状、その独特の自律神経失調症状に対して一般に「血の道」という言葉が使用されてきました。現代医学には血の道の概念も治療法もなく、安定剤や抗うつ剤などで様子をみるだけですが、漢方医学では患者さんの状況に応じて様々な血の道の薬を用意しています。
血の道とは、冷えと血虚、瘀血、気滞が絡まった状況と考えられます。
女神散、加味逍遙散、加味帰脾湯、芎帰調血飲などが代表処方です。