各種疾患への応用

小児に対する漢方治療

小児に対する漢方治療

小児に対する漢方治療の利点

生活環境の激変などにより、今日の子供は漢方医学の立場から診ると冷えと虚弱に陥っていることが非常に多い。漢方医学には現代医学にない優れた治療手段が沢山あります。
今日においてその第一は冷えや虚弱に対処する防衛剤だと思います。
子供は生命力が強い為、いわゆるプライマリーケア―に身体を強く温める人参湯、真武湯などの温裏剤や胃腸を温め、働きを良くする四君子湯、六君子湯などの補気剤、肝の働きを良くする小建中湯、黄耆建中湯などの建中湯類などの防衛剤を使用し自然治癒力を高めるだけで抗生剤や解熱剤などを使用しなくて済むことが多いです。
また、漢方医学には体質改善という概念があり、アトピーや喘息などの慢性疾患に対して気長に小建中湯や柴胡桂枝湯など体質改善薬を投与し治病に導くことも出来ます。
漢方薬を効かせるには自然治癒力を損なわないよう、冷たいもの(ジュース、アイスクリームなど)や冷えるもの(果物、生野菜、牛乳、ヨーグルト、甘い物など)を少なくし、温かい味噌汁と米飯を中心とし、肉や卵、バターなど動物性たんぱく質、脂肪の少ないお腹に優しい和食を薦める必要があります。
又、体調の悪い時は風呂やシャワーを控え、足湯をしたり、腹や喉、胸を温め(焼塩、こんにゃくなどで)自然治癒力を助けるよう指導しています。

漢方治療における小児の特徴

子供は生きている年月が少なく、生命力が強い為に平素より気血の滞りが少なく、一般的には瘀血はなく、又、腎陰虚(六味丸証)はあっても腎陽虚(八味地黄丸証)は無く、気血両虚も無いと考えられきました。
従って、裏虚「肝虚」に対する方剤である小建中湯や黄耆建中湯が子供の体質改善に非常に多く用いられます。
しかし、虚弱となった今日の子供には成人の手術後など著しい気力体力の低下(気血両虚)に用いられる十全大補湯や大防風湯が適応することも多く、腎陽虚に対する代表薬で中年以降に良く用いる八味地黄丸の適応もあります。
近年、昔の様に丸々と太り、顔が赤くて抱くと熱い赤ちゃんは殆どいなくて、青白い顔をして手足が冷えている赤ちゃんが多くなり、幼児や児童もおとなしくて動きの少ない、身体の冷えている子が多くなりました。
一般的な小児の漢方治療指針には、麻黄湯・五虎湯・治頭瘡一方・小柴胡湯・柴朴湯などの攻撃剤が挙げられていますが、冷えて虚弱となった今日の小児には、人参湯・真武湯など温裏剤や、六君子湯など補気剤を必要とするケースが圧倒的多数です。
それとともに虚弱となった小児には体質改善のため長期的に小建中湯などをアトピー性皮膚炎や喘息などに投与したり、解毒体質の子供には柴胡桂枝湯や十味敗毒湯、柴胡清肝湯を投与して、現代医学ではえられない治療効果が期待できることがあります。
小児は取り巻く環境、特に母親の影響を強く受けます。
日常診療においても母親の精神状態が子供に波及して病となっているケースに良く遭遇します。
そういった場合、漢方では母子同服といって母親にも同じ薬を与えることにより好結果を得ます。
抑肝散が有名ですが甘麦大棗湯なども良く使用します。
診させて頂く子供の数は少ないのですが、開業以来受診してくれていた子供たちが成人する姿を見せてもらえるのは医者冥利に尽きる楽しみでもあります。
それとともに小児の病気を漢方医学の立場で経時的に観察することが出来、現代医学の教科書には書いていない病気の本質の一端が私なりに捕らえられた様に思います。
例えばアトピー性皮膚炎の子供さんを診ていますと、思春期になって解毒体質の特徴でありますにきびが前胸部や背中に出てきますとアトピーが急激に軽減することを3例程観察しました。
ニキビという別の解毒機構が出来ればアトピーとして毒を排泄する必要が無くなるためと考えられ、アトピーは解毒体質に起因すると結論できるとともに、小児のアトピー治療の目標は、心身が大きく変化し病気が治りやすい時である思春期あるいは成熟期に向けて出来る限りの体力アップを図ることであると思います。
民間では子供の病気には救命丸・奇応丸・六神丸と言いまして牛黄や麝香の入った強心鎮静、解熱剤が使われてきました。
発熱時に飲ませるばかりでなく、非常に便利な薬で、癇の虫と言って何か興奮することがあると夜泣きしたり、歯ぎしりしたりする子供にも飲ませます。
高熱を出し受診する子供を良く診ますと麻黄湯など解表剤の適応ではなく、(勿論、漢方医学的には解熱剤の適応が無い状態)裏寒に陥っていることが多いのが現実です。
この場合、茯苓四逆湯や真武湯など温裏剤を投与せざるを得ないのですが、温裏剤ですんなり解熱してこない時に前述の奇応丸などを併用し用いて良いことが多く、又、抗生物質の絶対的適応でない時の扁桃腺炎や気管支炎・喘息に温裏剤などと併用して用いるなど極めて重宝しています。
虚弱体質でなければ地竜といってミミズも高熱を下げる為に民間で用いられてきました。
今日はエキス散の形で簡便で安価で用いることが出来ます。
最近、ある種の解熱剤でインフルエンザ脳症の発症が多いとの報告があります。
特に小児科のプライマリーケアーにおいては抗生物質や解熱剤を使わなくても漢薬だけで大抵何とかなることが多いのです。
本当に必要な時にだけ最小限に抗生物質を使用すればシャープに効いて、薬剤耐性も起きにくくなります。
解熱剤を必要最小限に使用すればライ症候群やアスピリン喘息も起きないのではないでしょうか?
現代医学の薬は強力で効果が高い反面、使用したために新たな病気をも引き起こすこともあります。
日常、小児疾患には殊に漢薬をメインにして不足を現代医学の薬でカバーするのがベストであると思い、及ばずながら実践しています。
 

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