皮膚疾患の漢方治療
接触性皮膚炎以外の慢性に経過するアトピー性皮膚炎、乾癬などの漢方治療の基本は脾胃を整えることであると思います。
眠れる預言者エドガーケーシーの残された膨大な資料には接触性皮膚炎以外の慢性に経過する湿疹、乾癬の原因は腸壁が薄くなっている、腸壁の消化吸収するための穴が粗になっているため、通常排泄されるべきものが吸収されてしまう。吸収された毒素の肝、腎での解毒機能を超えると毒素の排泄のために乾癬やアトピーなどの皮膚疾患を引き起こすのだと書いてあります。
私はつたない40年程の漢方診療の経験より、この考えが適切であると思います。
と言いますのは今日、保健所などでは出来るだけ離乳を早くし、発育を良くするため離乳食も栄養価の高い動物性たんぱく質を沢山摂るように指示していますが、私はアトピー性皮膚炎の乳幼児「殊に食べ物アレルギー」の大半に対して未熟な消化管の発育に合わせて出来るだけ離乳を遅らせ、離乳食も伝統的な穀類や芋類を中心とするやり方を薦めるとともに漢方薬も主に身体を温めたり、胃腸の働きを良くする人参湯、真武湯、四君子湯などを投与するだけでみるみる良くなっていくことが多いのです。
漢方の立場ではことに乳幼児のアトピーは腸を保護する、脾胃を整えることが中心であると考えます。
アトピー性皮膚炎は以前、子供の病気と考えられ小学校に入学する 頃には収まると考えられていました。今日は年長になってもアトピーのある子供や成人のアトピーも増えてきていますが、大人になっても子供の病気を引きずっているということは体質が虚弱であるためと考えるのが適切でないかと思います。年長の子供や成人にも脾胃を整えることを基本にして治療にあたっています。
脾胃に余力があれば積極的に解毒を図ることが出来ます。十味敗毒湯、乙字湯、柴胡清肝湯、荊芥連ぎょう湯、(竜胆瀉肝湯)などの柴胡剤、治頭瘡一方や、消風散、梔子柏皮湯、茵蔯蒿湯などの清熱瀉下剤、温経湯や芎帰調血飲、安中散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸加薏苡仁などの駆瘀血剤などを投与し積極的に解毒を図ります。
近年,地球環境は激変しています。一昔前と比べ,野菜の栄養価が著しく減少し,材木の質が年々悪くなっているといわれていることが示すように,地力は弱り,日の光は肌を刺すように強くなりました。身土不二と申しますが,人間の身体も,水面下で肝腎要である肝や腎が弱り,身体が干からび,上焦に熱を持つ人が目立ちます。滋陰したり、補血、補陰、補陽する滋陰至宝湯、滋陰降火湯、当帰飲子、きゅう帰膠艾湯、猪苓湯合四物湯、六味丸、牛車腎気丸などの滋陰剤、補血剤や補陰剤など、一般的に皮膚疾患の治療薬方と記載されているより幅広い処方が適応となります。
接触性皮膚炎以外の慢性に経過するアトピー、乾癬などの皮膚疾患の原因は漢方医学の立場では同じだから、皮膚疾患が移行しても治療法は同じです。
アトピーと蕁麻疹は移行しやすいことは良く経験することですが最近、成人アトピー の人の中に久しぶりにおいでになったひとの中に乾癬に移行している方があります。
補中益気湯が合う痩せ型の解毒体質で肌が平素からすすけた色をしておいでになり、 お好きなチーズやバター、コーヒー、お菓子などを少しにするようお話してあるのですがいつも守れずアトピーが悪くなると受診されていた方です。本年は乾癬になって いました。エドガーケーシーの考えの卓越さを実感させていただきました。乾癬は肉 食をする欧米人の病気と以前は考えられてきました。日本で乾癬になると臓物を食べる習慣のある韓国の人でないかと考えられていた時代もあったと聞いています。今日、日本人に乾癬が増えてきたのは食べ物の欧米化が原因と思います。日本の温かいご飯と味噌汁を主とする伝統食が高温多湿の風土に住み、冷えでお腹をこわし易い日本人には最適の治療食と考えます又、最近は掌蹠膿疱症の方もおいでいただきますがこの2年ほど通っておいでになる方は中年の女性で肉屋さんに長年お勤めの方で肉食を頻繁にされておられる方です。補中益気湯を中心に投与しながら肉を減らすよう、痩せるようにして頂きましたところよくなられました。エドガーケーシーの考えは掌蹠膿疱症にもあてはまるように思います
皮膚疾患の漢方治療の要点は「皮膚病変にこだわらず身体全体を診る」ことです。
以下がその具体的なポイントです。
- 皮膚と粘膜(消化器粘膜、呼吸器粘膜など)は同じ。 身体を温め、胃腸の調子をよくし、身体を整えて自然治癒力を高めることを最優先にする。
脾胃剤である補気剤(四君子湯、補中益気湯、麦門冬湯)、気血両補剤(人参養栄湯、十全大補湯、大防風湯、炙甘草湯など)、建中湯類(小建中湯、黄耆建中湯、当帰建中湯)や温裏剤(人参湯、真武湯)を先ず、念頭におくこと。 - 皮膚疾患は漢方医学では身体の毒が表に現れているとの概念がある。 積極的に毒を排除するための漢方薬が使用できる状況ならば、柴胡剤「十味敗毒湯、柴胡清肝湯、竜胆瀉肝湯など」や清熱瀉下剤「治頭瘡一方など」や駆瘀血剤(芎帰調血飲、安中散、温経湯、加味逍遥散、桂枝茯苓丸加薏苡仁など)を考える。
- アトピー性皮膚炎は本来、子供の病気である。 大人になっても治らない、大人になってアトピーが出現するのは生命力の低下、自然治癒力を損なう要因が多いためと先ず、考えたほうが良い。
生活改善に努めるとともに、脾胃剤や温裏剤、補血剤や補陰剤、滋陰剤などや、神経を安定させて皮膚の過敏性を治す薬方が効果のあることがある。
心気虚に対する薬方(甘麦大棗湯、帰脾湯、加味帰脾湯、人参養栄湯など)
心血虚に対する薬方である猪苓湯、猪苓湯合四物湯、芎帰膠艾湯など
竜骨牡蛎(カルシウム)の配された薬方(桂枝加竜骨牡蛎湯など)、理気剤(香蘇散など)
皮膚疾患の治療においても、表に現れた皮膚病変にこだわらず、生体全体としての病証を正しく診断し適切な薬方を投与する必要があります。
また、皮膚疾患は体内にこもった病毒を体外に排泄するために皮膚に病変を起こしていることが多く、皮膚疾患をステロイド剤などで強力に治療し皮膚病変を治すことは体内に病毒を戻すことになります。
それは生体に備わった制御機構を無視する治療であり、重篤な疾患の起因にもなりうるのです。
皮膚病の治療を受け治った → 腎病を発病 → 腎炎の漢方治療 → 皮膚病が再発したが放置 → 皮膚病治癒・腎炎治癒
アトピー性皮膚炎の赤ちゃん → 内服薬とステロイド外用剤 → 癲癇発作
アトピー性皮膚炎の赤ちゃん → ステロイド外用剤 → アトピーの軽減 → 喘息
例1は、腎炎は皮膚病の内攻によると大塚敬節先生は診断し治療にあたっておられ、漢方治療経過において出てきた発疹を、病毒を体外に排泄させ腎炎を治すチャンスと捕らえています。外から薬をつけずに放置し、皮膚病を治すとともに腎炎をも治されました。
例2、3は、アトピー性皮膚炎は解毒体質(自家中毒体質)に基づく疾患と漢方医学的には考えられます。
しかし、ステロイド剤などを使用しアトピーを治すことは体内に毒を押し込めることとなり、アトピーの近縁疾患である喘息や、あるいは癲癇を起こすことになります。
現代医学の皮膚科の最大の欠点はこの考えの欠如にあると思われます。
皮膚疾患の漢方治療に際して一番重視すべきポイントは先人の残した毒の概念を生かして治療にあたることであり、眼前の皮膚病変を漢薬を使用し治すことではないのです。
民間薬として皮膚病にはドクダミ(清熱解毒剤)と言われてきたように、皮膚疾患の治療薬方として黄連や黄柏、山梔子、大黄、紫根などの配された清熱解毒剤や、柴胡の配された柴胡剤、紅花や蘇木、牡丹皮、桃仁などの配された駆瘀血剤が有名ですが、皮膚の病変を解表し発散させて取り除くことを目的とする麻黄、葛根、桂枝、蘇葉、荊芥、防風などの配された解表剤や、人参敗毒散という薬方が物語りますように長引く皮膚病変に対して人参や黄耆で気力を増す補気剤や、芍薬、当帰、地黄で体力をつける補血剤も極めて重要です。
また竜骨や、牡蛎、遠志、酸棗仁が配され心を安んじ皮膚の過敏性を鎮める方剤が奏効することもあります。
- 温裏剤(附子・生姜) 人参湯、真武湯、茯苓四逆湯
- 補気剤(人参・黄耆など) 四君子湯、六君子湯、麦門冬湯、補中益気湯、清暑益気湯
- 気血両補剤(人参・黄耆・芍薬・地黄など) 十全大補湯、人参養栄湯、大防風湯、炙甘草湯
- 建中湯類(膠飴. 芍薬)小建中湯、黄耆建中湯、帰耆建中湯
- 補血剤・補陰剤(芍薬・地黄など)、滋陰剤(麦門冬など) 当帰飲子、芎帰膠艾湯、猪苓湯合四物湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、六味丸
- 解表剤. 理気剤(葛根・桂枝・蘇葉・荊芥・防風など) 香蘇散、桂枝加黄耆湯、黄耆建中湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、排膿散及湯
- 清熱解毒剤(黄連・黄柏・大黄・山梔子・茵陳蒿・石膏・紫根など) 治頭瘡一方、白虎加人参湯、防風通聖散、消風散、茵陳蒿湯、三黄瀉心湯、梔子柏皮湯
- 柴胡剤(柴胡) 十味敗毒湯、柴胡桂枝湯、乙字湯、荊芥連翹湯、柴胡清肝湯、(竜胆潟肝湯)、加味帰脾湯、補中益気湯
- 駆瘀血剤(桃仁・牡丹皮・紅花など) 安中散、芎帰膠艾湯、温経湯、加味逍遥散、桂枝茯苓丸加薏苡仁
乳幼児や、成長期の子供のアトピーは成長とともに、自然によくなることが殆どで、よい生活習慣を心がけられるように指導することが中心になります。
しかし、成人の遷延化した酷いアトピー性皮膚炎は仕事を休むことは叶わず、生活改善もままならず、色々、漢方薬を試したりしてもはかばかしくないことが多々あります。そうしたとき、私は感光色素であるルミンAを薦めて、良い結果を得ることがあります。