老人に良く使用する漢薬(その1)
ぽけや意識混濁、あるいは著しい全身衰弱と思われる状態が漢方医学の立場から診ると裏寒と診断され、温裏剤を適切に使用することにより急激に回復することがあります。
裏寒の治療薬代謝を上げ、自然治癒力を高める薬
代謝低下、ショック準備状態、顔色が悪い、唇の色が悪い、手足が冷たい、下痢、意志疎通(ぽけ)、意識混濁などの症状。
身体の中心を投影する部位(腹・胸・鼻)が他の部位と比較し冷たい。
主薬は生姜と附子。
エキス穎粒で著しい体調不良に対して投与する温裏剤のファーストチョイス。
人参湯エキス穎粒と附子末を合わせて作る風邪、胃痛、下痢、肋間神経痛、胸痛、喘息、胃潰瘍、神経症などにも用いる。
裏寒の程度が酷くない時は附子を加えなくても効果あり。
冷えをとり水毒を去る薬、少陰の葛根湯と言われ、現代の老人の風邪のファーストチョイス。
低血圧、潜在的な心不全、胃下垂、内臓下垂、体調不良などにも幅広く用いる。
温裏剤の基本薬(民間の生姜湯に相当)
昔、ショック状態に近い状況になった時に用いた薬。
虚弱化した今日の日本人には甘草乾姜湯のような感覚で、日常良く使用する。
起死回生の効果が得られることが多い。
著しい全身衰弱、意思疎通、ぽけと思われる状況が漢方医学の立場から診ると気虚と診断され、補気剤を適切に投与すると状況が急激に回復することがあります。
気虚の治療薬。胃腸の働きを良くし自然治癒力を高める薬。
臓器機能低下、特に心肺胃腸機能低下、胃腸虚弱、食が細い、下痢しやすい、疲れやすい、息切れ、動悸、貧血、痩せ、気弱、気落ち、クヨクヨ
人参湯+大棗・茯苓
補気剤の基本薬著しい気虚に用いる病後回復のファーストチョイス。
全身衰弱、貧血、慢性胃炎、便秘、下痢、低血圧、肺気腫など。
気虚の程度の酷い時は六君子湯や補中益気湯、十全大補湯などではなく、一先ず基本薬である四君子湯を用い、土台を固めてから次に適切な処方を考え、投与したほうが効果が上がりやすい
陳皮、半夏という鎮咳去疾剤、軽い少陽の熱を去る薬が配されている。
麦門冬湯(麦門冬・半夏・硬米・大棗・人参・甘草)
老人に多く見られる肺熱燥で喉がカラカラに渇き咳き込む気管支炎に使用。
咳がなくても老人に多い脱水に陥りやすい胃陰虚のひとの夏ばて、胃腸の不調や逆流性食道炎、不眠にも使用。
別名医王湯。気虚に陥ったひとの慢性疾患に良く用いて効果が高いとの意味。
胸脇苦満、身熱「口渇口苦むかつき舌白苔など」を目標に用いる風邪の治りがわるいとき、胃腸虚弱、内臓下垂、脱肛、便秘、夏ばて、慢性肝炎、湿疹、蕁麻疹など日常の幅広い疾患に柴胡の証があるのを確かめて使用すると抜群の効果があります。
別名腹寒散。腹を温め、蠕動を良くしてガスを出す。麻痺性イレウスに用いる冷えて、ガス満して便が出にくいのに使用(老人の便秘はこのケースが多い)。
長期にわたり用いる時は一般的には単独で用いず、たとえば補中益気湯合大建中湯としたり小建中湯合大建中湯とするほうが良い。(大建中湯には甘草が含まれない。甘草には心保護作用がある)
汗かきで疲れやすい水ぶとりの体質のひとの膝関節症、高血圧などに使用。
一般的に気血両補剤は手術後や放射線治療の副作用防止とか極端な体力消耗状態に用いるように指示されていますが、老人は血虚が潜在していて気虚にも陥りやすいため、極端な状況でなくて、一見元気な老人で胃腸の弱い傾向のある老人の諸疾患にも気軽に用いてほしい薬方です。
疾患治療に効果があるばかりでなく体力気力がついて風邪をひかなくなる、気分が良い、食が進む、良く寝れる、足腰が丈夫になるなどQOLの向上が期待できる重宝な薬です。
気血両虚の治療薬体力、気力をつけて自然治癒力を高める薬。(補気剤+補血剤=気血両補剤)
(人参・甘草・生姜・白尤・茯苓・大棗・当帰・芍薬・川芎・地黄)
気血両虚が著しい時は十全大補湯や人参養栄湯、大防風湯、表甘草湯などの解表薬の配された気血両補剤は強すぎて効果が上がりにくい時がある。
気虚の程度の著しい時に基本薬の四君子湯の方が良いように気血両虚の程度の酷い時は基本薬の八物湯を使用したほうが効果があがります。
今日の日本人は胃腸が冷えている人が多く人参湯+四物湯とすると良いことが多いです。
病後回復、体調不良、慢性関節リューマチ、高血圧など。
気血、陰陽、表裏、内外、皆、虚したものを大いに補うとの意味。
全身の衰弱が甚だしく胃腸の働きが弱り、貧血し、皮膚が枯燥して熱状のないのを目標に使用することになっており、病後、手術後などの極端に衰えた状況に適応がありますが、一見元気でも食べ過ぎるとお腹をこわしたり、痩せ気味のひとの痔痩、疽、手術後の排膿、療痙、皮膚炎、虚労の感冒、食欲不振、痩せ、便秘腰痛高血圧など広く諸疾患に用いて効果があります。
また、方剤の中の川芎は温性駆瘀血薬などの肝の瀉剤でもあるので十全大補湯は駆瘀血剤や柴胡剤などの肝の瀉剤を使いにくい時使用する、きわめて使いやすい重宝な薬です。
十全大補湯証より一層、気血虚し、心虚に陥り、息切れ、イライラ、不眠、健忘を訴えるひとに使用。
附子が配されており、神経痛、腰痛、慢性関節リューマチなど痛みに効果があるぱかりでなく、牛膝が配されているため軽い駆瘀血剤でもあり高血圧、前立腺肥大など広く諸疾患に使用の機会が多い。
十全大補湯より補血、駆瘀血、解表、止痛効果が高く、老人には日常、極めて使いやすい薬方です。
過労後、動悸、脈結滞するものに用いることになっている。
死にそうな人のイメージがあるが、現実は丈夫な太り気味のひとでがんばりすぎて、身体の不調、のぽせ、発汗、動悸を訴える万年風邪、高血圧、腰痛、膝痛などを訴える人に用いる機会が多い。
老化に対処する老人の保健薬。胃腸の丈夫なひとに用いる。骨を丈夫にする、足腰の弱りに対処する、骨粗しょう症の薬。血液をさらさらにする、血管を丈夫にする、抗動脈作用、抗血栓作用のある薬。前立腺肥大の薬。老人には必須の薬であるが気虚を伴えぱ気血両補剤の適応となる。
血虚、陰虚、陽虚の薬。まとめて補腎剤。主薬は地黄。
肝虚、腎虚(肝、腎の働きの低下)、顔色が悪く、艶がない皮膚がカサカサして潤いが無い、頭髪が抜けやすい、白髪眼精疲労、眼の乾燥感、憔悴、無月経、爪の色が悪く、脆い動悸、頭暈集中力低下、不眠(腹直筋の緊張、食欲あり、下痢しない)。
婦人の聖薬。妊娠腎、産後血脚気、血の道に用いる。特に女性の中年以降の諸疾患(高血圧、腰痛骨粗巻症など)に幅広く用いる。
温め血を散らしたり、出血を止める文葉が配されている。
痔疾、高血圧など。
四物湯に心煩を治す猪苓湯が合方されている。不眠、頻尿を訴えるひとに使用し、効果が高い。
四物湯に黄柏と釣藤鈎(肝気を平らかにし脳血管の異常興奮を抑える)と黄耆を神した薬方。
メニエール、不眠、自律神経失調、肩こり、高血圧、脳動脈硬化、物忘れなどによく使用し、効果を実感している。
釣藤散と合方して投与する機会が多い。
血虚に虚熱症状が加わった状態。
顔面頬部の紅潮、手足や顔のほてり、寝汗のぽせ、めまい喉の渇きを目標に投与。。
ほてり、のぽせを訴えるひとの高血圧、糖尿病などに良く使用。
眼の衰えを訴えるひとの高血圧、腰痛など諸疾患に用いる。
表を巡らせ補陰する処方。六味丸に比べ、補陰の力は分散。
耳鳴り、めまい、夜間頻尿、足腰がだるい、足煩熱、冷える、寒がり、
八味地黄丸の効果を強化した薬
補陰剤、補陽剤の使用疾患
腎疾患、腎炎、腎結石、萎縮腎、腎孟炎、蛋白尿、膀胱疾患、膀胱炎、膀胱結石、膀胱括約筋麻痺、膀胱直腸障害、前立腺肥大、尿閉、尿失禁、腰痛、坐骨神経痛、膝関節症、下肢麻痺、高血圧、糖尿病、白内障、眼底出血、骨粗しょう症、老人性膣炎、肺気腫、老人性皮膚掻痒症など
特に男性に使用の機会が多い。
補血剤や補陰剤、補陽剤の使用は裏寒や気虚に陥っていない時に限る。
風邪をひいたり下痢、胃腸の調子の悪いときは使用しない。
気虚を伴っているときは大建中湯+八味地黄丸、補中益気湯+八味地黄丸などと補気剤を加味して気血両補剤の形で用いると良いこともある。