各種疾患への応用

風邪・インフルエンザによく用いられてきた漢方薬

風邪・インフルエンザによく用いられる漢方薬

現代の風邪のファーストチョイスは広義の温病処方

最近は、一昔前のような寒気が強く、ガタガタ震え、節々が痛み高熱がでる風邪は少なく、温病タイプの風邪、胃腸タイプの風邪が多くなりました。温病の代表治療薬は銀翹散ですが、保険収載されていません。銀翹散に近いエキス剤として、参蘇飲や川芎茶調散、升麻葛根湯をよく使用しています。また、脾胃を補いながら香附子、厚朴、木香、陳皮などで軽く発汗を促す理気剤など、広義の温病処方を用い、効果を実感しています。

広義の温病処方
処方名 構成生薬
参蘇飲
※六君子湯に右記生薬を加える
葛根 蘇葉 前胡 木香 枳実 桔梗 
川芎茶調散 川芎・香附子.薄荷・荊芥・防風・白芷・羗活.甘草・細茶
升麻葛根湯 葛根.芍薬.升麻・生姜.甘草
香蘇散 香附子 陳皮 蘇葉 甘草 生姜
香砂六君子湯 人参・茯苓・朮・半夏.;陳皮・大棗・香附子・縮砂・藿香.生姜.甘草
香蘇散と茯苓飲合半夏厚朴湯の合方 香附子 陳皮 蘇葉 甘草 生姜 半夏 茯苓 朮 厚朴 人参 枳実 生姜
茯苓飲合半夏厚朴湯 茯苓.朮.人参・陳皮・厚朴.枳実.半夏.紫蘇葉.生姜
六君子湯 半夏・茯苓・人参・朮.;陳皮・大棗.甘草・生姜
帰脾湯 黄耆 酸棗仁 人参 白朮 茯苓 竜眼肉 遠志 大棗 当帰 甘草 生姜 木香
清暑益気湯 朮 人参 麦門冬 黄耆 当帰 黄柏 陳皮 五味子
猪苓湯 猪苓・茯苓・沢瀉・阿膠・滑石
五苓散※ 沢瀉 朮 猪苓 茯苓 桂枝

※五苓散は吐き下しの風邪によく用いられますが、口渇を訴え、吐いても吐いても水分を欲しがるタイプに用い、吐いたらぐったりして水分を欲しがらないタイプには人参湯が適応します。見極めて用いたいものです。

今日の日本人の風邪には温裏剤を忘れない

 

病のごく初期「セリエの警告反応の時期」は裏寒人参湯や真武湯など温裏剤の適応

生体がストレスを受けたとき、時間の長短はありますが、生体がストレスにうち負かされ、生体の防衛反応が衰えて、代謝レベルが低下している時期があります。
漢方医学では裏寒と言っていますが、風邪をひいたかなと思う時は身体がだるく、おもく、寒気がしたり、鼻水が出たり、発熱したり、あるいは下痢気味になったりします。このような状態のとき、民間療法では生姜湯や卵酒を飲んだりして身体を温めて休養をとり、自然治癒力を高めることに専念するように指示します。
この状態に適合する漢方薬は人参湯や真武湯などの温裏剤です。風邪には葛根湯が有名ですが、この時期に葛根湯を投与すると、生体に逆らって無理矢理発汗させるために自然治癒力を損ない、裏寒の程度を酷くし、反対に風邪の治りを悪くしてしまいます。 今日の日本人は、現実にはセリエの警告反応の時期が長引く人が多く、風邪やインフルエンザで受診する患者さんはたとえ高熱が出ていても太陽病(葛根湯など解表剤の適応する段階)ではなく、現実は裏寒であることがあるのです。温裏剤を適切に投与し、身体を強く温め、自然治癒力を高めて自然発汗を図り、受けたストレスを排除するようにします。

裏寒をとる温裏剤
処方名 構成生薬
人参湯 甘草 朮 人参 乾姜
真武湯 茯苓 芍薬 朮 生姜 附子
四逆湯類  甘草 乾姜  附子

※裏寒についてはストレスと裏寒を参照。
また、今日の日本人は地球環境の悪化や生活様式の変化などにより、少陰病となっている場合も「良く診ると」多く、一昔前にはあまり使われなかった温裏剤が必要な薬方となっています。

少陰病「陰病」・裏寒

…真武湯など温裏剤の適応です 風邪のひき始めから生命力が衰えた状態が続き、脈微細、寝てばかりいたり、だるさ、ふらつき、下痢、いつまでたっても風邪が治りきらない状態の時、漢方医学の立場では少陰病と言います。真武湯など温裏剤を投与し、生命力を高めて治病に導きます。
▽傷寒論には少陰病の治療処方に麻黄附子細辛湯も挙げられています。今日、一般的に新陳代謝の衰えやすい高齢者に麻黄附子細辛湯が良く投与されるのですが、麻黄が配されており、心臓が弱ったり、胃腸が弱かったり、前立腺肥大や眼圧上昇のある人には避けたほうがよい処方です。高齢者には麻黄附子細辛湯と同じく附子の配された真武湯をファーストチョイスとして使用していただきたいと願います。
▽現代においては臨床的には少陰病の治療処方は真武湯とシンプルに割り切って考えたほうがよいと思います。

半表半裏に入り込んだ風邪熱をとる柴胡剤

風邪熱が半表半裏に入りこんだ状態、少陽病に用います。風邪をひいて3~4日が経ち、食事がまずく、口か粘り、喉が渇くようになり、胸脇苦満がある時に使用します。長引く風邪が柴胡剤ですっきりと短期間に治るのをよく経験します。柴胡剤は風邪に対しても重要な処方です。

少陽病の半表半裏の熱を中和する柴胡剤
処方名 構成生薬
小柴胡湯 柴胡 半夏 黄芩 大棗 人参 甘草 生姜
補中益気湯 黄耆 朮 人参 当帰 柴胡 大棗 陳皮 甘草 升麻 生姜
柴胡桂枝乾姜湯 柴胡 黄芩 瓜呂根 桂枝 牡蠣 甘草 乾姜
柴胡桂枝湯
(小柴胡湯と桂枝湯の合方)
柴胡 半夏 黄芩 生姜 桂枝 芍薬 大棗 人参 甘草
加味帰脾湯 黄耆 柴胡 酸棗仁 朮 人参 茯苓 竜眼肉 遠志 山梔子 大棗 当帰 甘草 生姜 木香

※喉がイガイガして空咳が激しい、痰がへばりついて出しにくい、上胸部に燥熱がある時は麦門冬も配された処方を使用します

麦門冬が配された柴胡剤
処方名 構成生薬
竹茹温胆湯 半夏 柴胡 麦門冬 茯苓 竹茹 生姜 枳実 香附子 陳皮 桔梗 甘草 人参 黄連
滋陰至宝湯 香附子 柴胡 芍薬 知母 陳皮 当帰 麦門冬 白朮 茯苓 地骨皮 貝母 薄荷 甘草
現代においては麻黄の配されない桂枝湯類や気血両補剤などの使用の機会が多い

軟弱となった今日の日本人には麻黄の配されない桂枝湯類など「広義の太陰病、厥陰病の治療処方」の適応が多いのです。

太陰病、厥陰病の風邪に用いられる桂枝湯類、気血両補剤
処方名 構成生薬
桂枝加附子湯 桂枝 芍薬 大棗 甘草 生姜 附子
当帰四逆加呉茱萸生姜湯 大棗 桂枝 芍薬 当帰 木通 甘草 呉茱萸 細辛 生姜
小建中湯 芍薬 桂枝 大棗 甘草 生姜 膠飴
黄耆建中湯 芍薬 黄耆 桂枝 大棗 甘草生姜
当帰湯 当帰 半夏 桂枝 厚朴 芍薬 人参 黄耆 山淑 乾姜 甘草
十全大補湯 桂枝 地黄 芍薬 川芎 朮 当帰 茯苓 甘草 黄耆 人参
人参養栄湯 地黄 当帰 白朮 茯苓 人参 桂枝 遠志 芍薬 陳皮 黄耆甘草 五味子
炙甘草湯 地黄 麦門冬 桂枝 大棗 人参 炙甘草 麻子仁 阿膠 生姜
大防風湯※ 黄耆 地黄 芍薬 朮 当帰 防風 杜中 川芎 牛膝 大棗人参 きょう活 甘草 生姜 附子

※大防風湯には桂枝は配されていないので桂枝湯類には入りません。防風ときょう活で解表を図る気血両補剤で、一般的には気血の衰えた人の関節リウマチなどに用いられる処方ですが、現代の風邪に用いて効果が高いのでここに挙げさせていただきました。

定石とされてきたのは太陽病の方剤である解表剤
太陽之為病、脈浮、頭項強痛、而悪寒
太陽病、項背強几几、無汗悪風、葛根湯主之
太陽病「表寒実」葛根湯など強く発汗を促す麻黄の配された解表剤が適応

 
従来の冬季の風邪やインフルエンザの初期によくみられるタイプで浮脈、頭痛、項強、悪寒し、ストレスを排除しようと生体防衛反応が活発に働き、代謝が急上昇しているが、しかし未だストレスを排除する段階に至っていない状態を太陽病と言います。 葛根湯など麻黄の配された処方で強く発汗を促し、ストレスの排除を図ります。
※傷寒論では麻黄の配されない桂枝湯も太陽病の治療処方となっていますが、臨床的には太陽病の治療処方は麻黄が配され、強く発汗を促す解表剤が適応とシンプルに割り切って考え方がよいと思います。

太陽病の治療処方解表剤
処方名 構成生薬
葛根湯 葛根 大棗 麻黄 甘草 桂枝 芍薬 生姜
麻黄湯 杏仁 麻黄 桂枝 甘草
大青竜湯 麻黄 杏仁 桂枝 生姜 大棗 甘草 石膏

※太陽病「表寒実」については現代医学の立場からみた三陰三陽(私案)を参照。

現代においては麻黄剤の使用は慎重に

地球環境の激変や生活様式の変化などにより今日の日本人は想像を超えて虚弱化しています。一昔前までは‘風邪には葛根湯’と言えるほど効果が高かったのですが、現代人には強く発汗を促す麻黄の配された処方は現実には合わない人が殆どです。今日、一般的によく投与されている、以下の処方の使用は慎重になっていただきたいと願います。

慎重に使用したい麻黄剤
処方名 構成生薬
葛根湯 葛根 大棗 麻黄 甘草 桂枝 芍薬 生姜
小青竜湯 半夏 甘草 桂枝 五味子 細辛 芍薬 麻黄 乾姜
麻黄附子細辛湯 麻黄 細辛 附子
   
万年風邪に対する漢方薬

風邪を始終ひき、また、いつまでたっても治らないといって受診されたり、体調不良を訴える人が多いが、裏寒に陥っていたり、壊証となり裏寒証と他証が並存していたり、あるいは風邪熱が取りきれないままになっていることがある。
生活の改善を行ないながら、粘り強く治療を行なっている中で良くなる人がある。

    • 茯苓四逆湯を投与し生活習慣の改善
    • 真武湯と人参湯を交互に使用し生活習慣の改善
    • 真武湯を投与し生活習慣の改善
    • 小建中湯と真武湯を併用し、生活改善
    • 炙甘草湯と真武湯を交互に使用し生活習慣の改善
    • 参蘇飲と真武湯を交互に使用し生活習慣の改善
    • 猪苓湯、清暑益気湯、滋陰至宝湯、滋陰降火湯など
おわりに

現在のところ、風邪やインフルエンザの特効薬はありません。養生が一番大切です。
漢方薬もあくまでも補助にすぎません。平素より心身共に健康的な生活を心がけるとともに、風邪をひいたかなと思ったら養生をしっかりして、生命力、自然治癒力を高めることが必要です。人間の身体は温めることと脾胃を整えることで生命力、自然治癒力が高まるように設計されているからです。
今日では風邪やインフルエンザに対して輸液、解熱剤、抗生物質、抗ウイルス薬、気管支拡張剤など効果の高い現代医学の治療手段があるために養生を軽んじる傾向があります。

風邪、インフルエンザに対する養生
  1. 体調が悪くなりかけていると感じた時から早く就寝し、睡眠を充分にとり、休養を心掛ける。
  2. お腹に優しい身体が温まる食事を少なめに食べる。
  3. 足湯だけにして髪を洗ったり、風呂やシャワーを止める。
  4. 身体を冷やさないように衣服などを工夫する。特に、下半身や腹、首、背中を冷やさないようにする。
  5. 焼き塩や湯たんぽなどで身体を適切に温める。ごく当たり前の常識なのですが、今日は養生を知らない人が非常に多いのです。風邪が1ヶ月も治らないと訴えて受診される人の中に、極端な不摂生が原因であることが多いのです。また、風邪のぶり返しも不摂生が原因のことが多いのです。
    新種のインフルエンザの感染爆発が懸念される今日、もう一度、足元をしっかり固めたいものです。
附記

解熱剤の害が叫ばれていますが、漢薬を的確に投与していてもなかなか熱が下がらない時に薬価収載されていませんが、昔から解熱剤として地竜、牛黄など動物生薬が使われてきました。

地竜ミミズを干したもの

エキス散が安価で手に入ります。
飲みやすいばかりでなく、駆瘀血作用も期待できます。

牛黄牛の胆石

救命丸、六神丸、奇応丸、救心、ウサイエン(牛黄清心丸加減)の中に入っています。
強心作用もあり使いやすい薬です

プロポリス

天然の抗生物質といわれるのはプロポリスです。
私は喉が痛いとアルコール抽出でないプロポリスの原液を直接、喉に垂らします。それで風邪にならずに済んでしまいます。
 
 
 

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