漢方治療入門講座

老人に良く使用する漢薬(その2)

老人に良く使用する漢薬(その2

裏虚に対する薬
肝の働きを良くして自然治癒力を高める薬。
裏虚
肝虚(肝の働きの低下)、興奮しやすく、疲れやすい手足のほてり胸がづつない皮膚のざらつき、こむらがえ(腹直筋の緊張下痢なし、食欲がある)。
芍薬甘草湯(芍薬・甘草)
一般的には短期間用いる。頓服的に使用。 一般的にこむら返りに用いられている。
長期にわたり闇雲に用いると弊害が起こりやすい。
芍薬甘草附子湯(附子末)
甚だしい裏虚に用いる胸の苦しさなど。
小建中湯(桂枝・芍薬・甘草・生姜・大棗・膠飴)
(桂枝加芍薬湯+膠飴)
過労後の風邪、便秘、腰痛、ヘルニア、慢性肝炎など。
帰耆建中湯(小建中湯+黄耆.当帰)
過労後の風邪、便秘、膀胱炎、褥瘡、胃潰瘍など
解表剤
表を巡らし発汗させる薬。現代医学の風邪薬+α
 
香蘇散(香附子・紫蘇葉・甘草・陳皮・生姜)
理気薬の香附子、紫蘇葉や陳皮が配されている。風邪薬としてPL穎粒の感覚で極めて使いやすい。
虚弱となった今日の老人の風邪薬のファーストチョイス。
頭痛、胃のつかえ、蕁麻疹、不眠にも使用。六君子湯と合わせて使用すると良いことも多い。
 
当帰湯(桂枝湯去大棗・当帰・黄耆・人参・山椒・半夏・厚朴)
背中の冷えを訴え腹にガスの多いひとに使用。
胸痛 気管支炎 喘息 高血圧などに広く使用。
清熱瀉下剤
陽明病の治療薬方。黄連、黄ごん、黄柏、大黄、石膏などの清熱瀉下薬の配された薬方。
単に瀉下「便通をつける」ばかりでなく、清熱「消炎、鎮痛、降圧、沈静、抗動脈硬化、抗血栓など多枝にわたる作用が期待できる」作用があり、体力気力のある中年以降の諸疾患に重要な薬。
 
釣藤散(石膏.釣藤・橘皮・半夏・麦門冬・茯苓.人参・菊花・防風.甘草・乾生姜)
気が上逆したために、頭痛、めまい、肩背拘急、眼球結膜の充血、神経症が起きたときに使用の機会。
早朝の頭重や頭痛を訴える脳動脈硬化症などに使用
 
女神散(当帰・川芎・白尤・香附子・桂枝・人参・黄ごん・梹榔子・黄連・木香・甘草・丁香・大黄)
黄連が配されており、のぼせて、顔が赤黒い、高血圧、肩こり、めまい、不眠、イライラ、老人性痴呆などに用いる。
 
滋陰降火湯(当帰・芍薬・地黄・天門冬・麦門冬・陳皮・白尤・知母・黄柏・甘草)
かつて肺結核に良く用いられた薬。
現代人は肺の熱燥に陥っているひとが多く、滋陰剤の適応のあるひとが多い。
中年以降の高血圧、気管支炎など諸疾患にも用いる。
麻子仁丸(麻子仁.大黄.芍薬・枳実・厚朴・杏仁 煉蜜)
老人に多い、津液少なく、血燥き、胃腸に熱あるひとの常習性便秘に使用。
大便硬く、小便数多く、汗出て皮膚湿りたるものに使用。汗なく、皮膚カサカサのものには功なしとの記載があります。
 
 
木防已湯(石膏.木防已・人参.桂枝)
うっ血性心不全に陥り、心下痞堅し、胸膈内の停水をきたし、呼吸困難.浮腫.尿不利..口渇の症状がある時に用います。多くは真武湯と合方して投与するとよいことが多い。
加味四物湯(黄柏・五味子・黄連・知母・杜仲.麦門冬.当帰・川芎・芍薬・地黄・蒼朮.人参・牛膝)
温清飲に近い処方ですが、上盛下虚となり、四肢軟弱となったものに上焦の実熱を寫すだけでなく、麦門冬.知母などで津液を潤すことにより、強く下部に作用します。更に杜仲.牛膝を加味して下虚を治す処方です。
糖尿病.高血圧.脳出血後遺症、脊髄癆.小児麻痺などに使用。
 
柴胡剤
少陽病の治療薬方。
柴胡の配された薬方柴胡の証があるのを見定めて使用。柴胡剤でないと改善しない病状があり、現代医学には無い薬。
消炎、解毒、降圧、沈静など多技にわたる作用が期待できる。
抑肝散加陳皮半夏(柴胡・当帰・川芎・釣藤鈎・茯苓・尤・甘草・陳皮・半夏)
痛の高ぶったひとで胃腸虚弱なひとに使用。
イライラ、不眠高血圧パーキンソン症候群など諸疾患に使用。
加味帰脾湯(柴胡・山楯子・当帰・黄耆・木香・遠志・酸棗仁・竜眼肉+四君子湯)
気を使いすぎ神経疲労に陥ったひとに使用。
女性に良く使用するが男性にも使用イライラ、不眠、老人性欝状態、高血圧など諸疾患に使用。
 
 
滋陰至宝湯(柴胡・当帰・芍薬・白尤・陳皮・知母・香附子・地骨皮・麦門冬・貝母・薄荷・甘草)
かつて肺結核に用いられた薬。
加味迫遙散に近い肺熱燥を治す薬。
老人によく使用。
長引く風邪など諸疾患に広く用いる。
駆瘀血剤
瘀血の治療薬。駆瘀血(消炎、鎮痛、沈静、降圧、抗動脈硬化、抗血栓、抗癌など多技にわたる作用が期待できる)して病気を治す薬。
現代医学に無い薬で起死回生の効果がえられることがある。
疎経活血湯(四物湯+桃仁・牛膝・竜胆・防已・防風・威霊仙・羌活・白芷・生姜・甘草・茯苓・蒼尤・陳皮)
瘀血・水毒と風寒を兼ねて,筋肉・関節・神経に疼痛を発し,特に腰より以下に発した痛みを目標にして,腰痛・坐骨神経痛・下肢麻痺・半身不随・高血圧などに用います。矢数道明先生の『漢方処方解説』には「酒色を好むものに多く,内傷と外感によって起こる」との記述があります。肝経の湿熱を瀉す竜胆が配されています。
桂枝茯苓丸(桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬)
瘀血を治す代表処方。両腹直筋の緊張があり,下腹部に瘀血がある人の諸疾患に用いられます。臍下に冷えを感じない人に使用します。
 
 
通導散(芒硝・当帰.;枳実・厚朴・陳皮・木通・紅花・蘇木・甘草.大黄.)
昔,刑罰の丈刑が行われた後には通導散が与えられていました。杖傷により生じた瘀血が血熱をもって腹部から心臓部に上攻し,大小便が不通となって悶乱して死ぬのを防ぐためです。今は広く瘀血による諸疾患にも応用されています。一般的には太って,がっしりした,赤ら顔,爪の色が暗赤色で,下腹に瘀血を思わせる抵抗と圧痛がある人が使用対象となります。打撲・高血圧・動脈硬化・片麻痺・腰痛・前立腺肥大などにも広く応用されます。
 
 
血府逐於丸(当帰・川芎・地黄・芍薬・桃仁・紅花・牛膝・枳実・桔梗・柴胡・甘草)
残念ながらエキス剤にない処方ですが,瘀血に付随する血虚と気滞にも配慮した名方です。中年以降のいわゆる実証で,瘀血がある人の生活習慣病にきわめて有用な処方です。日常,高血圧、狭心症、脳血管障害、糖尿病、前立腺肥大などによく使用し、効果を実感している。
付記
安神剤(漢方の精神安定剤)
甘麦大棗湯(甘草・大棗・小麦)
心配しすぎていらいら、くよくよ、不眠のある、あくびが良く出る食の細い脾虚、心気虚タイプに使用。
酸棗仁湯(酸棗仁・茯苓・知母・川芎・甘草)
虚労、虚煩寝るをえずというのが目標。体力が衰え、元気がなく、不眠、気欝に使用。
 
 

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