漢方治療入門講座

老人に対する漢方治療

老人に対する漢方治療

老人には特別な配慮が必要
人は年を重ねると白髪になり、皮膚の艶なくかさつき、搬がより、女性は閉経し、若い頃より二回り以上も身体が小さくなります。
漢方医学の立場では人間の身体は「気血」が満ち、整っている状態があるべき姿と考えます。「気」に対してより実体のあるものを「血」と呼びます。
老化に必然的である、あるべき「血」が少なくなった状態を漢方医学の立場では「血虚」、「陰虚」、「陽虚」と呼びますが、中年以降は全てのひとが潜在的に「血虚」、「陰虚」、『陽虚』の状態にあると言えます。
病理学上、諸臓器は老性萎縮「実質細胞数の減少」をきたしますが、特に肝臓の重量は80代以降は3分の2から半分程度までになります。
細胞数の減少を補うため若い頃より、個々の細胞は代償性に肥大し、臓器の機能低下を補っています。
老人は平素から無理に無理を重ねているわけで、漢方治療に際しても特別な配慮をする必要があります。
老人に対する漠方治療の要点
  1. 漢方医学には老化に必然的に伴う血虚、陰虚、陽虚に積極的に対処する四物湯や六味丸、八味地黄丸などの現代医学に無い補血剤、補陰剤、補陽剤があります。老人に起きる諸疾患に有効であるばかりか、未病防止、QOLの向上のための保健薬としての効果も期待できます。
  2. しかし、老人になると消化器機能も衰え若い頃に比べて少食となり、次第に痩せ、心肺機能が衰え息切れ、動悸し、疲れやすくなる方(気虚に陥っている)を多くみうけます。
    そうした方に補陰剤、補陽剤、補血剤を使用するとかえって胃腸機能を損なってしまうため、現実には服用できない方が結構多いのです。
    そうした方には補気効果の高い人参、黄者が配された補気剤である四君子湯、六君子湯、麦門冬湯、補中益気湯などを投与すると、疾患治療に有効であるばかりか、食事が美味しい、ぐっすり寝れる、元気が出た、気分が良いといって喜んでいただけます。QOLの向上が期待出来ます。
  3. 気虚の程度のひどくない時は補気しながら補血、補陰する気血両補剤である十全大補湯、人参養栄湯、大防風湯などを投与します。また、小建中湯や帰耆建中湯など建中湯類もよく投与します。
  4. 老人は気血が衰えているため、寒がりとなり、厚着をし、鼻水を出しやすく、少しのことで裏寒に陥りやすい特徴があります。
    茯苓四逆湯、真武湯、人参湯など温裏剤を補助処方として使用すると良いことが多いです。
  5. 老人の心身の著しい衰えが、漢方医学の立場では西洋医学の薬の多剤併用による、生体のダメージが原因の裏寒や気虚のことがあり、温裏剤、補気剤の使用により急激に回復されるのをよく経験します。老人は多くの病気を抱えていることが多く、現代医学の治療は必然的に、多剤を投与となり、薬害が起こりやすくなります。老人には特に漢方薬を中心とした治療が必要と思います。
  6. 老化は血管の老化と言いますが、漢方医学の立場では瘀血が大きく関与しています。駆瘀血剤には、抗血栓作用や抗動脈硬化作用もあり、脳血管疾患・高血圧・循環器疾患等にも積極的に用いるべき薬です。また,打撲・捻挫・骨折,四肢身体の頑固な疼痛や慢性肝炎・慢性腎炎・がんなどにも適応があります。気血が衰えていなければ、駆瘀血剤を適切に投与すれば、西洋医学に無い効果を実感できます。 

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