いわゆる自律神経失調症にも漢方薬を
◇はじめに
近年、いわゆる自律神経失調症で悩む人が増えています。
今日の日本は物と情報にあふれ、人々は一見、豊かで便利な生活を謳歌しているように見えますが、今や壊滅的な状況に陥った地球環境のもと、経済優先の社会システムの中に人間としての真の幸せを見い出せず、血の通った人間としての心の奥底からの満足感が得られにくく、漠然とした先の見えない不安を抱え、心が冷え込み、すさんでしまっている人が多いためではないかと思います。
漢方医学は心と身体を区別せず、一体であると考え、気血を整えて身体と心を同時に整える医学ですので、すべての漢方薬が自律神経失調症の薬とも言えるほど、患者さんの状況に応じてさまざまな治療処方が用意されています。いわゆる自律神経失調症にも是非、漢方薬をファーストチョイスとして使用していただきたいと願います。
◇漢方医学における心身相関の基本的な考え方
まずは漢方医学における心身相関に関する基本的な考え方を紹介しましょう。
漢方医学では「気」という概念で心身を統一して捉えています。目に見えないエネルギー「気」を更に「気(実体のないもの」)と「血(より実体のあるもの)」に分けて考え、後世になると気血の「血」から狭義の「血」を分立させ、「血」と「水(血液以外の体液)」に分けて取り扱われるようになり、「気」、「血」、「水」(気血水)という3要素から病態を観察し治療するようになりました。気とは、下記のように考えられています。
● 目には見えないが身体に作用し精神にも作用するもの
● 血・津液および排泄物を押し動かし臓腑機能を促進するもの
● 身体を温める
● 過剰な排泄・出血を抑え、内臓の位置を保つ
● ものを変化させる
● 栄養にかかわる
次に、「気」の状態と、それに対応する処方について表にまとめて紹介します 。
【自律神経失調症における気の分類と対応処方】
気虚/気の不足 | ・臓腑の機能低下、停滞 | ・ | やせる、疲れやすい、持続力がない | ・ | 気弱、くよくよ、うつ的気分になる | | 人参や黄耆などの補気薬が配された四君子湯などの補気剤 | 気滞/気が滞っている | ・ | 喉のつまり、腹や胸などが張って苦しい | ・ | 頭痛などの痛み | | ・ | おならやゲップが出ると楽になる | ・ | イライラ、怒りっぽい | | 気の巡りを良くする香附子、厚朴などの理気薬が配された香蘇散、半夏厚朴湯などの理気剤 | | ・ | 手足が冷えているのに顔が熱く、ほてり、ふらふらする状態 | ・ | 頭に気が行きすぎて過剰となり、手足に気が巡っていない状態で、身体全体として気のバランスが悪い状態を気逆、気の上衝、俗に「冷えのぼせ」と言う | | ・ | 気が小さくて、真面目 | ・ | 興奮しやすくてすぐカーッとなり、イライラ、クヨクヨし、疲れやすいなどの自律神経失調症状も来たす | | 温めて気を下げる桂枝の配された桂枝湯類「桂枝湯及び桂枝湯加減」 | |
● 気の偏向「気の偏在」、気の有余「気の過剰」について 古代中国には大自然の法則を5つの要素に分けて説明する陰陽五行説があり、漢方医学における疾病の診断治療の基礎となっています。
五臓六腑にそれぞれ神が宿り、臓腑の機能を整えるとともに、各臓腑には固有の感情を内蔵していると考えます。また、疾病の内因として、七情と言い、極端な感情の逸脱が臓腑の気の過剰を来たし、病的現象として火を生じさせ、気の偏在を起こし、臓腑の機能を狂わせ、精神のバランスを失わせ、様々な身体の病気を引き起こすとともに、いわゆる自律神経失調症にもなると考えられており、それぞれに的確な治療薬方を用意しています。
治療薬方については後に紹介いたしますが、ここでは「気と陰陽五行説の考え方」と、五行思想の五行がそれぞれ何に対応しているかを記した「五行配当表」を紹介しておきましょう。
気とは、世の中を構成しているすべての最小単位で、物も心も命も気によって成り立っており、これら万物の変化の仕組みを理論化したものが陰陽五行説という考え方であり、五行(木、火、土、金、水)がそれぞれ何に対応しているかを記したものが「五行配当表」です。配当表をご覧ください、一見、荒唐無稽に思えるのですが、よく見ると鋭い感覚で病証を的確に捉えています。
【五行の配当表】 | 五臓 | 五腑 | 五季 | 五悪 | 五液 | 五根 | 五色 | 五声 | 五主 | 五味 | 五華 | 五志 | 木 | 肝 | 胆 | 春 | 風 | 涙 | 目 | 青 | 呼 | 筋膜 | 酸 | 爪 | 怒 | 火 | 心 | 小腸 | 夏 | 熱・暑 | 汗 | 舌 | 赤 | 笑 | 血脈 | 苦 | 面色 | 喜 | 土 | 脾 | 胃 | 土用 | 湿 | 涎 | 口唇 | 黄 | 歌 | 肌肉 | 甘 | 乳・唇 | 思 | 金 | 肺 | 大腸 | 秋 | 燥 | 洟汁 | 鼻 | 白 | 哭 | 皮毛 | 辛 | 息 | 悲 | 水 | 腎 | 膀胱 | 冬 | 寒 | 唾 | 耳 | 黒 | 呻 | 骨髄 | 鹹 | 髪 | 驚・恐 | |
◇漢方医学の立場からみた現代のいわゆる自律神経失調症の特徴と治療 1.心と身体を温めることです漢方医学では心と身体を区別せず、一体であると考えます。身体が強力なストレスに打ちのめされてしまうと裏寒「ショック準備状態」に陥りますが、同時に心も冷え込んでしまいます。逆に心が強力なストレスに打ちのめされてしまっても、裏寒に陥り、同時に身体も冷え込んでしまいます。
虚弱となった今日の日本人には隠れた裏寒に陥っている人が多いのですが、自律神経失調症に悩む人の中にも漢方医学の立場からよく診ると隠れた裏寒に陥っていると判断できる人がいます。患者さんの命と真剣に向き合いながら、適切な温裏剤を投与すると、身体が温まるとともに心もほぐれて良くなっていただけます 。
【自律神経失調症を良くする温裏剤】 茯苓四逆湯 | 乾姜 甘草、附子 茯苓 人参 | ・ | 漢方の救急救命剤である四逆湯類であるが、茯苓が配されていることにより気を下げる効果に優れている。 | ・ | 裏寒が認められるものの、のぼせ、イライラ、不眠を訴える人に日常、良く使用し、感謝されることの多い処方です。 | | 人参湯加ブシ末 | 乾姜 甘草 朮 人参 附子 | ・ | 漢方の救急救命剤である四逆湯に一番近い処方構成のエキス剤。 | ・ | エキス剤の中で心と身体を温める効果が一番優れている。 | ・ | 四逆湯の代用として、心がショック状態に陥り心が凍りついている、雨戸を閉じて寝てばかりいる、身体が冷たい、飲食を好まない、急激な痩せなどの危急の事態に用いる。 | ・ | 顔が青白いが目つきが鋭く、眼球がやや充血していることが多い。 | | 真武湯 | 茯苓 芍薬 朮 生姜 附子 | ・ | 裏寒、水毒を目標に使用する温裏剤。 | ・ | 心がショック状態に陥り、心が凍りつき、寝てばかりいて、青白い顔をして顔や足が浮腫み、排尿回数が少なく、起きるとフラフラすると訴える人に用いる。 | | |
2.気を高め、脾胃を整えることです漢方医学では心と身体を区別せず、一体であると考えますので、気力が衰え、身体の力が落ち込めば、脾胃の働きが弱るとともに、心も萎えます。気力が衰え、心が落ち込めば、身体の力も落ち込み、脾胃の働きも弱ります。
虚弱となった今日の日本人には脾胃の働きの衰えている人が圧倒的に多いのですが、自律神経失調症に悩む人の多くも漢方医学の立場からよく診ると脾胃虚弱の人が多く、適切に脾胃剤を投与することで自律神経失調症が良くなっていただけることが多いのです。脾胃剤には補気剤、気血両補剤、裏虚に対する処方があります。
≪気虚の著しいときには補気剤を≫ 気力の著しく衰えた状態を気虚と言い、臓腑機能が衰えます。一般的には著しい胃腸虚弱、痩せ、体力の低下を指しますが、気落ち、滅入りそうな気分など著しい気分の低下も意味します。このような時には、体力、気力を高める人参や黄耆など補気薬の配された構成生薬の少ない補気剤を投与し、脾胃の働きを良くし、体調を良くするとともに気力を高め、自律神経失調症を良くします。
【自律神経失調症を良くする補気剤】 四君子湯 | 朮 人参 茯苓 甘草 生姜 大棗 | ・ | 著しい気力低下に因り、心が萎えて、落ち込み、滅入りそうな気分になっている時に用いる。 | ・ | 体力、気力を高める効果が高く、体力が出て食欲が良好になるとともに、気分が自然と晴れやかになり、自律神経失調症状が良くなることを多く経験する。 | | 大建中湯 | 乾姜 人参 山椒 膠飴 | ・ | 山椒と膠が配された処方。 | ・ | 青白い顔をして額に皺を寄せ、くどくどと繰り返し自律神経失調症状を訴える人で、腹が冷えて軟弱で便が出にくいのを目標に用いる。 | ・ | 排便がスムーズになるとともに、食欲も出て、気分が晴れやかになり、元気になっていただけることがある。 | | 六君子湯 | 朮 人参 半夏 茯苓 大棗 陳皮 甘草 生姜 | ・ | 四君子湯に半夏と陳皮が加わった処方。 | ・ | 痩せ型で食が細く、口の渇き、唇が赤く、かさかさする、冷たい飲み物を飲みたがる、胃の違和感などを訴える人の、NUDによく用いられる処方であるが、イライラ、クヨクヨ、不眠など自律神経失調症にもよく用い、効果の高い重宝な薬である。 | | 補中益気湯 | | 黄耆 朮 人参 当帰 柴胡 大棗 陳皮 甘草 升麻 生姜 | | ・ | 柴胡が配された補気剤。 | ・ | 胸脇苦満を目標に用いる。 | ・ | 別名「医王湯」と言われ、諸疾患によく用いられ効果の高い薬であるが、気分の落ち込み、鬱的気分などの自律神経失調症状も益気することで自然に晴れやかになる。 | | | 麦門冬湯 | | 麦門冬 半夏 粳米 大棗 人参・甘草 | | 老人の空咳の薬として有名ですが、咳き込みがなくても、上胸部に燥熱があり、口の渇きを訴える不眠、自律神経失調に効果がある。 | | |
≪気虚の程度が著しくなく、脾胃に余力があれば気血両補剤を≫ 一般的には気血両補剤は自律神経失調症に効果があるとは考えられていないようですが、自律神経失調症にも効果があります。極端に脾胃が衰えていなければ気血をすべて補う気血両補剤を投与し、気血を補い五臓六腑の働きを良くするとともに、気分を整え自律神経失調症も良くします。
【自律神経失調症を良くする気血両補剤】 十全大補湯 | 黄耆 桂枝 地黄 芍薬 川芎 朮 当帰 人参 茯苓 甘草 | ・ | 気血両補剤の代表処方で、諸疾患に用いて極めて効果の高い薬である。 | ・ | 一般的には身体症状のみに効果があると考えられているようであるが、気血をオールラウンドに補うことにより、心も自然に晴れやかになり、いわゆる自律神経失調症状が良くなる人が多い。 | | 人参養栄湯 | 地黄 当帰 白朮 茯苓 人参 桂枝 遠志 芍薬 陳皮 黄耆 甘草 五味子 | ・ | 十全大補湯加減であるが神経安定効果のある遠志や、肺を温めて働きを良くする陳皮、五味子が配されており、諸疾患にも用いられるが、気弱となり、不安や不眠を訴える自律神経失調症に用いて効果の高い薬である。 | | 大防風湯 | 黄耆 地黄 朮 当帰 杜仲 防風 川芎 羌活牛膝 大棗 人参 乾姜 附子 | ・ | 十全大補湯加減であるが杜仲、牛膝が加わり補腎効果を強化した処方。 | ・ | また附子も加わることにより、身体を温める効果の高い薬である。 | ・ | 諸疾患によく用いて効果の高い薬であるが、十全大補湯と同じように気血をオールラウンドに補うことで心も自然に晴れやかになり、いわゆる自律神経失調症状が良くなることも多い。 | | 炙甘草湯 | 地黄 麦門冬 桂枝 大棗 人参 麻子仁 生姜 甘草 阿膠 | ・ | 十全大補湯加減であるが麦門冬、阿膠が配され、津液不足を補い、滋潤効果を狙った処方構成となっている。 | ・ | 虚弱となり、津液不足に陥りやすい現代人に多い喉の渇き、イガイガ、カサカサして動悸や息切れを訴える人の諸疾患に用いて効果の高い薬。 | ・ | のぼせ、イライラ、不眠などの自律神経失調症状を良くする効果も高く、しばしば使用して喜ばれている。 | | |
≪気逆、気の上衝「冷えのぼせ」には裏虚に対する処方を≫ 気逆、気の上衝には桂枝湯類「桂枝湯ないし桂枝湯の加減方」を投与します。
一般的には自律神経失調症に対して神経安定効果の高いカルシウム剤である竜骨と牡蛎の配された桂枝加竜骨牡蛎湯がよく投与されているようですが、虚弱となった現代の日本人には桂枝湯に裏を補う効果の高いを増量し、更に膠や黄耆、当帰を加えた処方である建中湯類が現実には自律神経失調症に効果があることが多いのです。
桂枝湯にを増量し、膠を加えた処方を小建中湯といいます。小建中湯の方意に当帰を加えた当帰建中湯、黄耆を加えた黄耆建中湯及び帰耆建中湯を建中湯類と呼び、虚労に対処する処方で、虚弱となった現代の日本人の気逆、気の上衝には極めて有用な処方であると思います。
肝の働きが弱く、興奮しやすく疲れやすい小児の体質改善薬である小建中湯など建中湯類は老若男女を問わず、現代の広い世代の諸疾患に用いて効果の高い処方ですが、また、気が小さくて、真面目で、興奮しやすく、気が上るタイプ「気逆、気の上衝」の老若男女を問わず広い世代の自律神経失調症をも良くし、喜ばれることの多い処方です。
【自律神経失調症を良くする裏虚に対する処方「建中湯類」 小建中湯 | 芍薬 桂枝 大棗 甘草 生姜 膠飴 | ・ | 裏虚に対する薬の代表。 | ・ | 虚弱児の体質改善薬として有名であるが、虚弱となった現代の日本人には老若男女を問わず広い世代の諸疾患に用いて極めて効果の高い薬である。 | ・ | 手足のほてり、動悸、疲れ、胸の重さを目標に自律神経失調症にも用いて効果の高い薬である。 | | 当帰建中湯 | 芍薬 桂枝 大棗 当帰 甘草 生姜 | ・ | 小建中湯の方意に補血効果の高い当帰の配された建中湯。 | ・ | 衰弱の激しいときは黄耆建中湯と一緒に用いて帰耆建中湯加減として用いる。 | ・ | 身体の衰弱を治す効果が高く、諸疾患に用いて効果の高い薬であるが、自律神経失調症にも用いて効果の高い薬である。 | ・ | 疲労困憊、動悸、手足のほてりを目標に用いる。 | | 黄耆建中湯 | 芍薬 黄耆 桂枝 大棗 甘草 生姜 | ・ | 補気効果の高い黄耆の配された建中湯。 | ・ | 汗かきで寝汗の出やすい人の諸疾患に用いて効果の高い薬であるが、自律神経失調症にもよく用いる。 | | (当帰四逆加 呉茱萸生姜湯) | 大棗 桂枝 芍薬 当帰 木通 甘草 呉茱萸 細辛 生姜 | ・ | 冷えのぼせの程度のひどいのを目標に諸疾患に用いる。 | ・ | 虚弱になった今日の日本人には冷えのぼせとなった人が多く、諸疾患に用いて極めて効果の高い薬であるが、自律神経失調症にもよく使用し、効果の高い薬である。 | | (桂枝加 竜骨牡蛎湯) | 桂枝 芍薬 大棗 牡蛎 竜骨 甘草 生姜 | ・ | 桂枝湯に神経安定効果の高いカルシウムである竜骨、牡蛎の配された薬。 | ・ | 気逆、気の上衝タイプの自律神経失調症に対する代表処方。 | ・ | 円形脱毛症、チック、陰痿、遺精、夜尿症などにも使用の場がある。 | ・ | 虚弱となった今日の日本人には竜骨、牡蛎で胃腸を損なわないことを確かめながら使用する必要がある。 | | |
※( )は桂枝湯類
3.気を巡らすことです気のやまい、気鬱、気がふれる、などの言葉があるように、気を巡らして心と身体を整える処方である気剤は、いわゆる自律神経失調症に用いる代表とされてきました。気剤はまた、風邪薬、咳止め、頭痛薬、胃腸薬として身体症状にもよく用い、極めて重宝な薬です。
【自律神経失調症を良くする気剤】 香蘇散 | 香附子 蘇葉 陳皮 甘草 生姜 | ・ | 理気作用の代表薬である香附子と胃腸の働きも良くする紫蘇葉、陳皮が配された胃腸に優しい薬。 | ・ | 風邪や蕁麻疹、頭痛、腹痛などに気楽に使用できるばかりでなく、自律神経失調症にもよく用いる。 | ・ | 感情の抑鬱、ヒステリックな状態、精神的な緊張があり、心下部がつかえていて、狭い部屋にいると息苦しくなる、曇天で頭痛がするなどの著しい気分の悪化を訴えるのを目標に用いる。 | | 半夏厚朴湯 | 半夏 茯苓 厚朴 蘇葉 生姜 | ・ | 胃を温めながら気を下し、気分を落ち着かせる厚朴が配された薬。 | ・ | 咽頭に梅干しの種のようなものが引っかかっているような異物感を伴う気分の落ち込み、イライラ、顔面に軽微な浮腫と胃内停水、ガス満を目標に自律神経失調症に用いる有名な薬である。 | ・ | 臨床では半夏厚朴湯と同じように厚朴の配された茯苓飲合半夏厚朴湯、平胃散、当帰湯、柴朴湯などをよく使用する。 | ・ | 咳、喘息、花粉症など諸疾患にもよく使用する。 | | 帰脾湯 | 黄耆 酸棗仁 人参 白朮 茯苓 遠志 大棗 当帰 甘草 生姜 木香 竜眼肉 | ・ | 元来胃腸の弱い虚弱体質のものが思慮過度の結果、動悸、不眠、食欲不振、種々の出血を起こし、貧血を来したり、健忘症となったりする時に用いる。 | ・ | 酸棗仁、遠志、竜眼肉で心虚を補い、木香で気を巡らす処方構成になっている。 | | (甘麦大棗湯) | 大棗 甘草 小麦 | ・ | いわゆるヒステリーの薬 | ・ | 胃腸が弱く疲れやすい、あくびを頻発する人が神経を使いすぎて神経衰弱症状を来したときに心気を補い、脳神経の興奮を静める作用がある薬。 | ・ | 甘草と小麦、大棗だけのうっすら甘い味がして飲みやすい薬。 | ・ | 単独で用いず、脾胃剤などと合方して用いる機会が多い。 | | (酸棗仁湯) | 酸棗仁 茯苓 川芎 知母 甘草 | ・ | 肝の疎通を良くする川と神経疲労を治す酸棗仁が配されている。 | ・ | 考えすぎるタイプで不眠、肩凝りを訴える人に用いる。 | | |
※( )は狭義の気剤ではない
4.補腎剤を忘れないことです漢方医学には積極的に肝、腎の働きを良くし、老化に対処する諸疾患に用いる処方がありますが、同時に血気が衰えたために精神的に萎えた人を元気にし、自律神経失調症をも快復させる効果があります。
血気が衰えると、おとなしくなり、馬力が無くなった、勇気がわいてこない、志などもうどうでもよくなった、というような状態になり、健忘などの症状を伴うことが多いものです。このような時には補腎剤です。
【自律神経失調症を良くする補腎剤】 四物湯 | 地黄 芍薬 川芎 当帰 | | 六味丸 | 地黄 山茱萸 山薬 沢瀉 茯苓 牡丹皮 | ・ | のぼせ、ほてりを目標に、殊に男性更年期に伴う自律神経失調症状にも用いる。 | | 八味地黄丸 | 地黄 山茱萸 山薬 沢瀉 茯苓 牡丹皮 桂枝 附子 | ・ | 腎気を補うことで健忘などの症状が良くなることがある。 | | |
5.攻撃剤を適切に使用することです 漢方医学では疾病の内因として七情といい、極端な感情の逸脱が病気を引き起こすと考えます
≪肝気鬱結による自律神経失調症には肝の瀉剤を≫ 肝胆の気が充実している人は筋骨たくましく、集中力があり、明朗快活で、行動力と決断力があるタイプとされます。しかし、コントロールを失い、肝気を高ぶらせすぎると、肝気鬱結を来すようになります。つまり、気が肝に過剰となると病的現象として肝火が生じて、気が肝に偏在するようになるのです。そうすると肝に内蔵している憤怒の感情が爆発し、訳もなくいらつき、怒鳴るようになり、手が震え、目がとんがって引きつり、自制心を失い、鬼と化して犯罪を犯したり、精神障害、不眠、高血圧、心臓病など、さまざまな病気を引き起こしてしまいます。
このような肝気鬱血に対しては肝の瀉剤が用意されており、心と身体を同時に整えます。現代医学に無い独特の処方で、長年の自律神経失調症が短期日で軽快することがあり、こんなときは、臨床医として漢方を知っていて良かったとつくづく嬉しく思います。
【自律神経失調症を良くする肝の瀉剤】 四逆散 | 柴胡 芍薬 枳実 甘草 | ・ | 肝気鬱結に対する代表処方で、肝気鬱結による自律神経失調症状がドラマチックに良くなることがある。 | | | | | 抑肝散 | 朮 茯苓 川芎 釣藤鈎 当帰 柴胡 甘草 | ・ | 小児のいわゆる疳の虫の薬で、広い年代の疳の虫による諸疾患に頻用する。 | ・ | いわゆる自律神経失調症にもよく用い、効果の高い薬である。 | | 抑肝散加 陳皮半夏 | 半夏 朮 茯苓 川芎 釣藤鈎 陳皮 当帰 柴胡 甘草 | ・ | 抑肝散証で胃腸虚弱タイプの人に用いる。殊に婦人や老人の胃腸虚弱の疳の虫に頻用し効果の高い薬である。 | | 竜胆瀉肝湯 | 地黄 当帰 木通 黄芩 車前子 沢瀉 甘草 山梔子 竜胆 芍薬 黄連 黄柏 連翹 薄荷 防風 川芎 | ・ | 中年以降の殊に下焦に湿熱のあるタイプに用いる。 | | 柴胡加 竜骨牡蛎湯 | 柴胡 半夏 桂枝 茯苓 黄芩 大棗 人参 牡蛎 竜骨 生姜 | ・ | 竜骨、牡蛎という神経安定効果のあるカルシウム剤の配された肝の瀉剤で、自律神経失調症にも効果の高い薬である。 | | 加味逍遙散 | 柴胡 芍薬 朮 当帰 茯苓 山梔子 牡丹皮 甘草 生姜 薄荷 | ・ | 肝鬱に血が加わった時に使用する、更年期障害、いわゆる血の道の代表処方である。 | | 加味帰脾湯 | 黄耆 柴胡 酸棗仁 朮 人参 茯苓 遠志 山梔子 大棗 当帰 甘草 生姜 木香 竜眼肉 | ・ | 今日の日本人は虚弱化しているため、いわゆる血の道には加味逍遙散よりも加味帰脾湯が合うタイプが増えている。 | | 釣藤散 | 石膏 釣藤鈎 陳皮 麦門冬 半夏 茯苓 菊花 人参 防風 甘草 生姜 | ・ | 肝の高ぶりを鎮め、脳血管を拡張させる効果のある釣藤鈎が配されており、頭痛、めまい、肩凝りのあるひとの高血圧、動脈硬化などの諸疾患に用いられる処方であるが、イライラ、不眠などを訴える自律神経失調症にも使用の機会がある。 | | |
≪心火に因る自律神経失調症には清熱瀉下剤を≫ 心は君主の官と言い、精神の要です。感情の起伏がコントロールを失い過剰となると、心火が生じ、顔面紅潮し、興奮し、不安焦燥し、多動、不眠となります。挙げ句の果ては妄想、幻覚を来し気も狂います。漢方医学では心火を瀉下する清熱瀉下剤を投与することで、心と身体を落ち着かせます。
【自律神経失調症を良くする清熱瀉下剤】 三黄瀉心湯 | 黄芩 黄連 大黄 | ・ | 発狂寸前のような状況が三黄瀉心湯投与にて落ちつくことがある。 | | 黄連解毒湯 | 黄芩 山梔子 黄連 黄柏 | | 女神散 | 香附子 川芎 朮 当帰 黄芩 桂枝 人参 檳榔子 黄連 甘草 丁子 木香 大黄 | ・ | かつて戦陣で刀傷を負い、出血して錯乱状態に近い状況の時に使用された薬である。 | ・ | 血の道の代表処方。 |

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